1つの公演における照明の思考過程を追うシリーズの第2回目。今回は図面が完成してから、京都公演を終えるまでのお話です。
仕込みに向けた準備
ここからは、仕込み作業に向けた持ち込み物品の準備に入れます。
筆者はうっかり忘れ物をすることが多いので、持ち込み物品を考えるときには毎回「灯体」「アクセサリー」「調光卓」「調光ユニット」「電源コード」「DMXケーブル」といった分類表を参照し、それぞれについてリスト化しています。こうすることで、抜け漏れを無くすことができます。
今回の持ち込み物品は以下の通りでした。
【灯体】
【アクセサリ】
- 6インチ色枠
※仕込み時間短縮のため、6インチ灯体のみフィルターを枠にセットして枠ごと持ち込むことにしました。4.5インチについては、枠サイズが独自規格の灯体が多く、色枠ごと持ち込むのは却って危険なので、裸で持ち込みます。
【調光卓】
- PC
- DoctorMX (USBケーブル、DMXの5pin-3pin変換はセットで保管)
- MIDIフェーダー NanoKontrol
【調光ユニット】
- DX-402A×1
- DP-415 (または相当品)×4
【電源コード】
- T♂―平行♀変換×6
- 平行♂―T♀変換×20
※劇場の灯体がすべてT型プラグのため、ディマー数分必要
【DMXケーブル】
- 適宜 (とりあえず1箱持って行って、東京までに最低本数に絞る)
【その他】
- 捨て球(*2)
これらの物品をチェックしながら、採集コンテナに放り込んでいきました。平行♂―T♀は必要数確保できなかったため、一部新たに作製しました。
▲採集コンテナ。「ザル」とも呼ばれる
また、図面類もB4版に印刷したものを準備しました。
さらに、DoctorMXのコンソールに、勘で明るさを決めた照明データを作っておきました (事前打ち込み)。こうすれば、劇場入りしてからは「明るさの修正」だけで済み、場当たり時に何も明かりが出ないという状態は防げます。
京都会場・仕込みの様子
仕込みは、はじめ順調に行われました。10時入りで、11時30分過ぎには灯体は吊り終わり、結線も終了していたと思います。
次は “強電パッチ” です。と言っても強電パッチの原義からは少し外れます。大多数の灯体はバトンに吊られた持ち込みの調光ユニットに差しこまれていますが、その調光ユニットの一次側電源は、前回記事でも述べている通り劇場の旧型調光ユニットの一部を「フェーダー100%状態」にし、そこから電源を取っています。(つまり、調光ユニットから調光ユニットの電源を取る)
劇場の常設卓で7番~12番を「LINE」に設定。そして、各ディマーに捨て球と、持ち込みの調光ユニットに繋がる回路の♂を並列に差し込みます。
DMXケーブルは既に引き回してあるので、これで点灯できるはずです……!
結果は、失敗でした。
RDS製のこの旧型調光ユニット (PDS20-121T) では、「フェーダーの100%」で調光ユニットやLED灯体を正常動作させることはできなかったのです。何度か試行錯誤をしましたが、やはり無理だということが分かったので、この方法は諦め、今回は純直回路を6回路仮設することに決め、昼食休憩を取りました。
また、この結果を受けて東京で同じことをするのはリスクが高すぎると判断し、東京ではDMX機器の持ち込みは最低限とし、劇場備品の旧型卓に頼る割合を増やすことを決意しました。
午後は直回路の仮設から作業開始です。
この劇場の照明用分電盤は、端子台が2つあり、片方は常設の旧型調光ユニット行き、もう片方は仮設用の空きです。この空き端子に、通称「平行じゃらじゃら」と呼んでいる、ブレーカーの先に平行♀が6本じゃらじゃらしているものを取り付けました。
なお、本来は平行♀の1つ1つに15Aのブレーカーを付けるべきですが、当時は学生で予算も無く、この程度の粗雑なものをよく使っていました。むしろ責任分界点として、平行6本の上流にブレーカーが入っているだけマシです。劇場主幹の直下にいきなり平行を仮設してしまうこともできるわけで……
▲「正しい」仮設分電盤。これを真似しましょう
ともあれ、純直回路の仮設により、全機材が正常動作するようになったので、シュート (フォーカス) 作業に入りました。
しかしここでもトラブル発生。
基本明かりの「バック上手(#L201)」をシュート中に、突如ブレーカーが落ちる音が。しかも、他の明かりも点灯できません。ということは、照明用主幹ブレーカー (単相三線100A) が落ちたのです。
この現象には心当たりがありました。漏電です。
この劇場は、照明用主幹のみ漏電検知型ブレーカーになっています。もし灯体のショート等の過電流が原因であれば、個別のディマーのヒューズが飛ぶはずですし、火花くらい散ってもおかしくありません。しかし今回は「静かに」「主幹だけが」落ちました。間違いなく漏電です。
直ちに劇場の作業灯 (蛍光灯) を点灯。これは主幹からして別系統なので、舞台照明とは関係なく点灯できます。
そして、問題の灯体をバトンから降ろします。
その後、フェーダーがすべて下がっていることを確認し、照明主幹を復帰 (再投入)。他の灯体が原因ではないことを確認。
劇場備品に起因するトラブルのため、きちんとした劇場なら劇場スタッフの方が対応してくれる場合もありますが、ここはそういう劇場ではありません。更に悪いことに、フレネルは使い切ってしまって予備の灯体がありません。
……この灯体を修理するしかない!
原因はすぐに特定できました。ソケットの陶器部分が欠けて、中の電極が見えていたのです。この灯体 (松村電機 AE-BF-6 初期型) は、丸茂DFのような光軸調整機構ではなく、バネでソケットを囲むように押さえつけて光軸を固定するという古い設計です。
このため、ソケットの陶器部分は常に締め付けられていて負担が大きく、欠けてしまったのでしょう。そして剥き出しになった電極に押さえバネ (金属製) が接触し、灯体を通ってバトンまで電流が漏れたところを漏電ブレーカーが検知したと考えられます。
つまり、対策はソケットの交換です。
この機種が採用しているソケットは青山電陶の「小モーガル」で、倉庫の部品取り灯体 (日照製ベビースポット) と同じだったので、それと交換して解決しました。
絵作り・場当たり・ゲネ・本番
さて、シュートまでは苦労が多かったのですが、以後のプロセスは非常にスムーズに行きました。
場当たり中は、フラトレスのラストシーンで特別な明かりが必要であることが分かり、#20のシーリングをやめて単サスに転用したり、万一の予備と思っていたフォロースポットを本格的に使うシーンが1シーンだけあったり (ピンスポは無いので、日照ベビーに#119を入れてエッジの汚さをごまかして使った) 、ジャグリング特有の「見上げた時に眩しくてボールを落としてしまう」問題を解決するために一部灯体の吊り位置を動かしたりしたものの、それに対応できるだけの時間的・精神的余裕があったこともあり、灯体数は貧乏臭いながらも、おおむね各団体の要望を叶えることができたと思います。
しかし、いくつか「不正解ではないが、妥協した」と言えるシーンがあり、東京公演に向けての修正点となりました。
なお、本番の操作はDoctorMXのコンソール機能を使い、クロスフェーダーをMIDIコントローラーで手動操作しました。(詳しい方法はこちらの記事をご覧ください。)
同時に、劇場備品の旧型卓 (12ch×2段プリセット) をサブオペレーターのNさんが操作し、フォロースポットの操作も彼女が担当しました。2人のオペレーターが「せーの」で同時操作する場面もあり、東京公演に向けて息を合わせる訓練になったと思います。
バラシはつつがなく終了し、東京公演への準備に入りました。
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