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意外と奥が深い「手持ちピンスポ」の世界

懐中電灯を使って「スポットライトごっこ」をして遊んだことのある方もいらっしゃると思いますが、極めて小規模な公演の場合、これは実際の舞台照明として有効な方法になる可能性があります。これを「手持ちピンスポ」と名付け、考察を加えてみたいと思います。

目次

手持ちピンスポの条件

わざわざ「手持ち」と付けるくらいなので、比較する対象は劇場にある本物のピンスポになるわけですが、まず最初に、「手持ちピンスポ」が成立するための灯体側の要件を述べたいと思います。

  1. フォローをする目的で使えること
    ピンスポと言うからには、固定の位置を照らすのではなく、役者を追いかけて動かす技法 (フォロー) に使用できる必要があります。

     

  2. スポットライトであること
    たとえばスマートフォンの内蔵ライトなどは、カメラのフラッシュも兼ねるので、周辺をまんべんなく照らすように設計されています。このようなライトでは「手持ちピン」にはなりません。光の輪郭がある程度クッキリした、スポット性のある光が求められます。

     

  3. 小型軽量であること
    「手持ち」をするためには、小型軽量である必要があります。電源に関しても、できれば電池式が望ましいでしょう。

これらの特徴を踏まえると、遠方照射用の強力な懐中電灯を使うのが最もよさそうです。では、そのような灯具で「手持ちピン」をやった場合の利点、欠点を考えてみます。

 

手持ちピンスポの利点

  • 場所を取らない、どこにでも持ち運べる
    通常のピンスポと異なり、灯具も小型で、スタンドなどの装備も必要ありません。

     

  • 手ぶれに「味」がある
    懐中電灯をそのまま使うので、どうしても操作者による手ぶれが発生します。しかし人間の手によるブレは見慣れている人が多いので、本物のピンスポをへたくそに操作した時の見苦しさに比べればマシとも考えられます。

     

  • 特別な訓練を必要としない
    前の項目とも関連しますが、本物のピンスポットライトは上手く見えるための操作に一定の「お作法」があり、習得に時間がかかります (参考:クセノンピンスポットを操作するための取扱説明書【基本編】|くらげ模様) 。
    これに対し手持ちピンは、訓練が不要で、誰が操作してもほぼ一定の効果が得られると言えます。

     

  • 灯体ごと動くことができる
    電池式の懐中電灯であれば、持っている人が移動すれば光源自体が移動することができます。通常のピンスポはスタンドに乗った状態で「首振り」しかできないので、それとは異なる雰囲気の演出ができる可能性があります。たとえば野外劇で、走り去っていく演者を懐中電灯を持った人が走って追いかけながら照らすといったことも可能でしょう。

手持ちピンスポの欠点

  • 明るさが足りない
    最大にして最も重要な欠点がこれでしょう。所詮、懐中電灯ですよ。舞台用の灯体の明るさに勝てるはずがないじゃないですか。ピンスポは本来、特定の演者を「抜く」ために使用するので、地明かりに勝てるくらいの明るさが必要です。にもかかわらず、手持ちピンは周りがある程度暗くないと使えないという大きなデメリットがあります。

     

  • 手ぶれがある
    「味がある」と書きましたが、手ぶれは手ぶれです。見苦しいことに違いはありません。本物のピンスポであれば、手を触れなければぶれませんが、手持ちピンでは人間の関節や筋肉の限界で、「完全な静止」が難しく、止めておきたくてもプルプル動いてしまうというデメリットがあります。

     

  • 調光やアイリスができない
    これも懐中電灯を使うのなら当然と言えば当然ですが…。ズーム (照射範囲の可変) 程度はできる懐中電灯も多いですね。

     

  • 演色性が悪い
    今どきの強力懐中電灯はほとんどLED光源ですが、基本的に明るさに全振りしていて、演色性のことは考えていません。本来の用途を考えれば当然のことではありますが、写真に撮ったりすると露骨に演色性の悪さが出るので要注意です。


    ▲gekidanU公演『おと鳴り』より。写真3枚目のバイクの後部座席に当てているのが懐中電灯です。色温度の違いもあり青っぽくなっていますが、それにしても赤系の発色が悪いのが分かります

手持ちピンスポにおすすめの灯体

こんな飛び道具的な照明におすすめも何も無いですが(笑)、筆者が使ったことのある「手持ちピン」の灯体と、これから試してみたい灯体を紹介します。

 

American DJ / Pinpoint Gobo CW

これは本物のピンスポと同じ、プロファイルスポットの仲間です。おそらく店舗の軒先に設置して、お店のロゴを出すような目的のスポットライトだと思います。しかし、バッテリー駆動な上に、アームを外すとちょうど片手で握り込める大きさなので、まるで手持ちピンのために存在するかのような灯体です。(笑) LEDも10Wのものを使用しており、かなり明るいです。
pinpoint_gobo_1
pinpoint_gobo_2

 

NiTEC / iGobo

これも上の Pinpoint Gobo と同じ用途、ほぼ同じ性能の灯体です。私は使ったことがありません。ギリギリまで Pinpoint Gobo とどちらにするか迷いましたが、ズーム範囲がiGoboは10°~15°、Pinpoint Goboは12°~25°と違いがあり、範囲の広い後者を選びました。

 

AmazonのLED懐中電灯

これは正真正銘の懐中電灯です。中国系セラーが多いので商品名などが安定しませんが、以前はこのリンクの懐中電灯を使っていました。ズームで照射範囲を絞れて、そこそこクッキリした「○」が得られるので、まずまず満足した記憶があります。
amazon_kaichuu

 

GENTOS / RX-044D

これも懐中電灯です。上記のAmazon懐中電灯を紛失してしまい、明るさと値段のバランスが良さそうだったので購入しました。しかし、絞った時のハレーションが多く、あまりクッキリした円になりませんでした。

gentos_rx044d

マキタ / ML185

まだ使ったことはありませんが、ハードオフで入手して保管してあります。マキタらしいインパクトドライバー風の形をした懐中電灯です。マキタの18Vバッテリーで点灯します。このモデルは12Vの白熱電球なので、明るさはあまり期待できないかもしれません。マキタは他にもバッテリー式の強力なライトのラインナップがあるので、機会があれば試してみたいところ。
makita_ml185

 

番外編

「手持ち用の灯体」として設計された舞台照明機材も過去には存在しました。
丸茂電機の戦前のカタログに載っている「ハンド プロヂエクター」です。

hand_projector

 

手持ちがしやすいように取っ手が付いていますね。製品説明には、「本器は舞台面を盛んに移動する人物の特種照明あるいは舞台中空を飛び去る小鳥または飛行機等を幻映する照明器具でありまして……」と書いてあります。

 

つまり、この記事で紹介したような手持ちピンの用途か、あるいはゴボを入れてホリゾント幕に鳥や飛行機の飛んで行く様子を投影するような目的で使われたものと思われます。

 

特殊効果用の照明器具が少なかった頃は、手で持つ灯体というのも一定の需要があったのかもしれません。

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この記事を書いた人

高校演劇~大学の学生劇団で照明を経験し、現在は会社員の傍らアマチュアで舞台照明を継続。第39回日本照明家協会賞舞台部門新人賞。非劇場空間の劇場化、舞台照明の歴史が得意。

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