この記事では、結像光学系を持ち、模様を投映できるスポットライトについて扱います。
総称として「プロファイルスポットライト」と呼ばれますが、通常は以下の3つに細分されます。
- エリスポ(カッターライト)…「ソースフォー」や「リクリ」など
- ピンスポ…役者を追いかけて照らすためのスポットライト
- エフェクトマシン…流れ雲など、動く模様を投影するためのスポットライト
上記3種類のスポットライトは同じ種類、仲間であると言えます。実際にこれらの灯体は、後述するように共通した特徴を持っています。
プロファイルスポットライト | |||
なお、このほかに「ゴボプロジェクター」と呼ばれる商業施設向けの灯体や、「ミラーボール照射器」と呼ばれる小型の灯体も、光学的には同じです。
模様を投影できるのが特徴
プロファイル系のスポットライト(エリスポ、ピンスポ、エフェクトマシン)に共通する特徴は、「模様を投影できるプロジェクターとしての役割を持つ」ことです。
プロファイル系スポットライトは、下の図のような光学系を持っています。
↑[文献:1]
上記は楕円ミラーを使用するタイプですが、放物面ミラーと凸レンズを組み合わせたり、凸レンズを複数枚使うなどして同様の投影光学系を作ったものもあります。
いずれも、顕微鏡やカメラと似たような仕組みです。
上の図では、電球と1枚目のレンズとの間(楕円の第2焦点付近)に、「ゴボ」と呼ばれる、模様や文字がくり抜かれた板(「ネタ」とも呼ばれます)を挟むと、上下左右が反転した像が照射面に現れます。
https://www.youtube.com/watch?v=aB-PXix-yqk
ピンスポは模様の投影を目的としていないので、ゴボを挟む機構が付いていない場合が多いですが、無理やり入れれば投影できますし、松村電機のハロゲンピンのように、ゴボスロットの付いたピンスポも一部存在します。
↑松村電機/MP-6シリーズ。アイリスシャッターの手前にゴボスロットの切り込みが見える[文献:3]
↑カタログにも、「パターン(=ゴボ)の投影も可能。」と明記してある[文献:3]
また、何もゴボを入れない状態では、綺麗な「○」が投影されます。普通の平凸レンズスポットライトには出せない、輪郭のとてもクッキリした円です。世間一般の「スポットライト」のイメージ形成に一役買っているでしょう。
この特徴から、和製英語で「シャープエッジ・スポットライト」とも呼ばれた時代がありました。
ちなみに、プロファイル“profile”は、「輪郭」という意味があり、動詞としては「~の輪郭を見せる」という意味があります。プロファイルスポットとは、輪郭をクッキリ見せるスポットライト、ということですね。
特殊なゴボ=アイリスとカッター
さて、入れた模様を投影できるという便利な性質をもつプロファイル系スポットライトですが、ある人はこう考えました。
「小さい円形にくり抜いたゴボがあれば、照射範囲を小さい円形にできる!」
「四角くくり抜いたゴボがあれば、照射範囲を四角くできる!」
…確かにその通りです。
プロファイルスポットは基本的に、平凸やフレネルと違って、電球を前後させるだけでは照射面の大きさを調節することができません。電球を動かしてもピンボケになるだけです。「ソースフォーZOOM」のように、大きさを変える機構が付いているものもありますが、普通は顕微鏡で倍率を変える時のように、レンズを交換するしかありません。
そこで、小さい円が欲しければ、小さい円のゴボを入れるしかないのです。
また、四角いゴボで四角い照射範囲を作ることができるというのは、他の種類の灯体には無い性質で、これは画期的です。これを演出に活かさない手はありません。
しかし、演目やシーンごとに異なる大きさの円や四角のゴボを作っていたのでは効率が悪い……
そこで頭の良い人は考えました。
「円の大きさを自由に変えられる装置をゴボの代わりに取り付ければいい!」
「四角の大きさや形を自由に変えられる装置をゴボの代わりに(ry」
……ということで誕生したのが、「アイリスシャッター」と「カッター」です。
「アイリスシャッター」は、レバーを操作するだけで円の直径を自由に変えることができる、巧妙な仕掛けです。
https://www.youtube.com/watch?v=nxv1k0IDWKo
「ピンスポ」にはアイリスシャッターが標準搭載されています。
「カッター」は灯体に4枚の羽根を付ける発想で、羽根をスライドさせることで四角や三角などのゴボをその場で作れるわけです。
https://www.youtube.com/watch?v=MlDlgqV5ow0
「カッター」を標準装備したプロファイルスポットを、「エリスポ」または「カッターライト」と呼びます。
なお、「アイリスシャッター」は普通の平凸レンズスポットの前面に取り付けることもありますが(学校備品に多い)、プロファイルスポットに入れる場合と違って、あまり明確に円の大きさを調節することはできません。
ピントの調節
さて、顕微鏡と似た仕組みを持つプロファイル系スポットライトですが、顕微鏡といえば、観察対象をハッキリ見るためには「ピントを合わせる」作業が必要ですよね。理科の実験で、なかなかピントが合わなくて苦労をした人も多いと思います。
プロファイルスポットライトも、使う時には「ピントを合わせる」作業が必要です。上に掲載したYouTube動画(“stagelightingstore”氏によるもの)を、もう一度よく見てみましょう。特に一番上の、ゴボを入れている動画が分かりやすいかもしれません。ゴボを入れた後に、ピントを合わせて、模様がクッキリ映るようにしています。
ピントを合わせて使うのが基本ですが、演出上の目的で多少「ピンぼけ」にして使うこともあります。その際、ピントが合った状態から、レンズを電球に近づけるか遠ざけるかで、印象が変わってきます。
レンズを電球に近づけると輪郭が赤っぽくなり、遠ざけると青っぽくなります。このことから、それぞれ「赤ボケ」「青ボケ」と呼ばれます。
純粋なプロファイルスポット、ITO
プロファイルスポットライトの代表的な機種に、東京舞台照明の「ITO-650W」があります。伊東さんという人が作ったからITOです。
多くのプロファイルスポットライトは、下位区分(エリスポ、ピンスポ、エフェクトマシン)のいずれかに分類されるものですが、ITOはそのどれにも属さない、「プロファイルスポットライト」としか言いようのない機種です。
ITOは、単独ではアイリスもカッターも付いておらず、ただただ「ゴボを投影できるだけの器具」です。
しかし、灯体の中ほどにあるオプションスロットにさまざまなアクセサリー(別売)を装着することによって、エリスポにも、ピンスポにも、エフェクトマシンにもなるのです。
エリスポの人気機種「ソースフォー」も、多種多様なオプションアクセサリーが魅力ですが、ITOはソースフォーに先駆けてそれを実現していました。
ITOは、「プロファイルスポットライトの下位区分として、エリスポ・ピンスポ・エフェクトマシンがある」ということを理解するために適した機種と言えるでしょう。
【参考文献】
1:Stage Lighting for Students http://www.stagelightingprimer.com/index.html?slfs-fixtures.html&2
2:藤井直(2006)『舞台の基礎からDMX、ムービングまで ステージ・舞台照明入門』リットーミュージック,2006,巻頭写真.
3:松村電機カタログhttp://www.matsumuradenki.co.jp/products/catalog/spotlight/
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