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【照明ケーススタディ】Philips Hueを、演劇の照明に使ってみた

Philips Hueという、スマート電球の先駆けのような電球があります。
philips hue
これを演劇の照明に使ってみた話です。

目次

公演概要

本番時期:2020年3月
公演名: アトリエ5-25-6 Produce Vol.2 犬小屋計画『一人夜明けにパンを焼く』
会場: アトリエ5-25-6
筆者の立場: 照明プランナー兼オペレーター

 

Philips Hueについて

Philips Hueは、いわゆるスマート電球(スマホアプリやスマートスピーカーで明るさや色を変えることのできる電球)です。最近のスマート電球はWi-Fi、Bluetooth等で直接制御できますが、Hueは少し登場世代が古いのもあって、Zigbeeという通信規格を用いています。このため、Wi-Fi (API) 経由の信号をZigbee信号に変換する、「ブリッジ」と呼ばれる箱とセットで運用します。

 

通常は専用のスマートフォンアプリやGoogle Home等からの操作に限られますが、これを舞台照明で使われるDMX信号経由で操作してみました。

制御方法

DMX-Hue という、そのままのタイトルのコンソールアプリを作った人がいたので、これを使用しました。
DMXはArt-Netとして供給するため、QLC+等のArt-Net出力ができる卓を使いましょう。

 

設定方法は、英語ですが下記の動画ですぐ分かると思います。

ただし、このアプリはPhilips Hueの中でもフルカラー(RGB)タイプしか制御できません。
白色タイプのHueや、同じくZigbeeを使っているIKEAのスマート電球だと、明るさしか制御できず色を変えられないのでご注意ください。

 

※実際には、APIの中で使われているパラメータの名前が違うだけなので、Javascriptの知識があればアプリを作り替えることは可能と思われます。

使ってみた感想

舞台照明機材として捉えた場合、「非常に手懐けるのが難しい」というのが主な感想です。

というのも、各所で指摘されている通り、Zigbeeという規格は極めて更新レートが遅く、1秒間に10回(0.1秒に1回)までしか指示を出すことができません。
そして、異なる電球を別々に制御する場合、単純に命令を2回に分けて発するという仕組みなので、電球の数が2個になれば、1個の電球あたりは1秒間に5回の変化となってしまいます。

下の動画では、2つのダウンライトにHueを入れていますが、両者で明らかに変化のタイムラグがあることが分かるでしょう。

これはZigbeeやHueに罪があるわけではなく、操作に対する考え方の決定的な違いが原因です。

 

たとえば明るさを100から0にする場合、DMXは「100、99、98、97、96……」と値を1つ1つ指示して0まで持っていくという考え方です。この方が、単純なフェードアウトだけでなく、途中で止めたりゆっくりにしたり、人間の繊細なフェーダー操作に付いていけるので、舞台照明には適しています。その代わりに、人間の操作に対し一瞬の遅延も許されないので、DMXは1秒間に512ch分のデータを44回更新するという高速な通信を使っています。

 

一方、Zigbeeの場合、「0にして下さい」という命令を1回送るだけで終わりです。あとは電球の判断でそれっぽい秒数(2秒~3秒)でフェードしてくれれば良いのであって、何秒かけてフェードするとか、途中でフェードが止まるかもしれないとか、そういうことは家庭用の照明には必要ないからです。Zigbeeは元々家庭用のスマート電球等を操作するための信号規格なので、この程度のやり方で十分です。だから更新レートも遅くて問題ありません。

 

このように決定的な考え方の違いがあるので、単純にDMXの信号の出し方でZigbeeに変換してしまうと、全然フェーダー操作に追い付いてくれない奇妙な挙動となってしまうのです。

 

今回の公演では当初、ダウンライトを全体的にHueにすることも考えていましたが、仕込み段階で2個まで減らし、それでも不安定なので1個とし、さらにダウンライトというメイン照明(地明かり)に使うのもやめ、アクセント的な使用方法に留めました。

他にも、

  • ブリッジ本体の更新がかかるとインターネット接続が必要
  • ブリッジのIPアドレスは自動取得がデフォルトなので、再起動など何かの拍子に変わってしまうと再セットアップが大変
  • ブリッジと電球のリンクも本番期間中に数回、外れることがあった
  • 何らかの理由で「OFF」の指示が届かなかった場合、暗転せずに残ってしまうことがある

といった感じで、かなり難儀でした。
通信が不安定だったのは、使っていた電球が初期型のHueだったのもあるかもしれませんが……

 

一方で、良かったところとしては、家庭用電球として使われるだけあって色は非常に美しい発色でした。
安物LEDにありがちなエグみのあるRGBではなく、特にが上品な色。R+G+Bが自然な白色になる配慮もされていました。

まとめ・今後の展開

Hueは本来、その発色の良さが演劇照明には向いているはずです。ところが制御系の考え方の違いにより、うまく舞台照明の世界に招き入れてあげられませんでした。

 

よって、演劇照明で使用する場合は、DMX値をそのまま変換して投げつけるのではなく、Zigbeeの考え方に合わせてあげるような考え方のアプリを開発するのが良いと考えます。例として、照明卓とは別で独立したキューシートを持っていて、あるチャンネルのDMX値が128を超えた時にキューをめくる、というような操作系にした方が逆に手懐けやすいと思います。

もしくは、下手にDMXで操作しようとせず、純正スマホアプリのシーン機能を使って、本卓と2枚使いでオペをするのが現実的かもですね。

 

その他、中国Aliexpressでは、直接DMXで操作できる電球も売っていました。
無線モノなので日本だと技適の問題がありそうですが、知っておいて損はない商品かと思います。
DMX_bulb

最後に、この試みのためにPhilips Hue電球の貸し出しに快く応じてくださったYさんに深い謝意を表します。

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この記事を書いた人

高校演劇~大学の学生劇団で照明を経験し、現在は会社員の傍らアマチュアで舞台照明を継続。第39回日本照明家協会賞舞台部門新人賞。非劇場空間の劇場化、舞台照明の歴史が得意。

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