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舞台用「C型コンセント」の歴史を調べてみる

舞台照明で使われているC型コンセントの歴史を調べてみました。

 

「音響・映像・電気設備が好き」という有名なブログがありますが、そちらに音響のパッチ盤などで使われていた“110号プラグ”の歴史を調べた記事が掲載されていました。

 

⇒『110号プラグの歴史を調べてみた』
https://ameblo.jp/holycater/entry-12468866125.html

 

私もこれに触発されて書いてみた次第です。

 

なお、そもそもC型コンセントとは何ぞや?という話は『【舞台用コンセント】C型コネクタについて』という別記事にて紹介しておりますので、基礎的な事項は本記事では省略します。

目次

C型の前身はA型 (ミニCは除く)

『C型コネクタについて』の記事でも紹介している通り、C型は「A型」というコンセントを前身としています。ただし、定格電流20アンペアのいわゆる「ミニC」についてはA型を前身としていないので、本記事では対象外とします。
以下、単に「C型」と言った場合、30アンペア (C-30)・60アンペア (C-60、ラージC) のコネクタを指すと考えてください。

 


上の画像の左が、A型プラグです。C型と比べると、中央のアース端子が無いことが分かります。

 

C型の文献上の初出は、柘植貞輝(1969)『初歩の舞台照明の手引き』p.68 に写真が載っていますので、その少し前と思われます。また、丸茂電機施工事例の国立劇場(1966年)のところで、「末端負荷に至るまですべてアース線を取り…(略)…コンセント、コンネクター類も3極30Aのものを新設計し」とあるため、1960年代後半~70年前後から劇場での施工事例が出現したと考えてよさそうです。(テレビスタジオではこれ以前から使用されていた可能性は否定できません)

 

その後、A型がC型に置き換わるまでの経緯については、JATET-L-5040-1規格の制定経緯のところに詳しく書いてあります。
JATET規格とは、劇場演出空間技術協会が独自に制定している工業規格です。

 

(以下引用)
A 型 30A 差込接続器は,電気用品の技術上の基準を定める省令の別表第四 1(2)ハに示す試験指によるフィンガーチェックに抵触するため,昭和 51 年(1976 年)型式認可の有効期限(7 年間)を限度として更新認可が不可能となり昭和 58 年(1983 年)以降の生産を中止することとなった。
(以上引用)

 

要するに、省令改正によって規定が厳しくなり、A型メスは容易に指を突っ込んで感電しうる構造であったため廃止されたという内容です。

 

さて、ここまでで、1970年頃から現在までの歴史が明らかになりました。
あとはA型について、さらに歴史を遡ればよいことになります。

 

A型の起源は輸入品

前述の JATET-L-5040 制定経緯には、このような一文も書かれています。

 

(以下引用)
e)C 型 30A 差込接続器に至る経緯
国内の舞台照明が,電気による周明設備として確立された 1930 年代には,演出空間が前述のような特殊な使用環境から,既に,電流容量 30A の接続器(輸入品)が使用されていた。
……(略)…… その後,昭和 21 年(1946 年)電気事業法の改正に基づき電気用品の形式認可制度が充実し実施されることになった。このことにより,舞台照明設備及び使用機器機材は電気設備として法規の適用を受けなければならないものとなった。
1)国内生産差込接続器 A 型 30A
特に,差込接続器は,舞台照明機材として必要不可欠であることから,法規の整備に準拠して昭和 23 年(1948 年)国内生産が行われることとなった。当初生産品は,A 型 30A 差込接続器(2P 接地極無し,現在の C 型接続器の原形)と S 型 30A 差込接続器(2P 接地極無し,接触子がポール型)であったが,S 型は,暗転時などの悪条件での着脱に扱い難い点があり A 型が差込接続器の主流となった。

(以上引用)

 

このことから、

  • 戦前の1930年代には、すでに舞台照明用の特別なコンセントが使われていた
  • 初期に使用されていたのは輸入品である
  • 戦後、国産化された
  • 当初はA型とS型の2種類があったが、S型は扱いづらく廃れたのでA型だけが残り、それが現在のC型につながる

という4点が読み取れます。

 

…なんと、A型の時点では日本独自のコンセントではなく、輸入品を元にしたものであったことが分かりました。

 

そこで、古書のオンライン販売で入手した戦前の丸茂電機カタログを開いて確認してみましょう。(画像はクリックで大きくなります)
CCF20161110_00060CCF20161110_00061
舞台照明型録. B-6. 丸茂電機製作所 編 (1937年版)

 

ありましたね。型式も「A型とS型がある」ことが明記されていて、JATETの記載内容と合致します。形状もよく知られているA型とほぼ同じものです。
さらに、この時点では定格電流は30Aではなく、50Aと75Aの2種類であったことも分かります。
よくよく見ると丸茂のロゴが入っているように見える写真もありますね。JATETの記述では戦後から国産が始まったように読めますが、実際はこの時点で国産化されていたのかもしれません。

さて、こうなると、この「輸入品」とされるA型コネクタがどこから来たのか知りたくなります。

 

アメリカ・クリーグル社のカタログ

色々探してみたところ、おそらくこれだ!というものに行き当たりました。

 

アメリカの最初期の照明機材メーカーのひとつ、Kliegl Bros. (クリーグルブラザーズ社) の1913年のカタログです。
http://www.klieglbros.com/catalogs/G/G.htm

 

ページ36-37のところに、「“KLIEGL” Stage Pockets and Plugs」という項目で紹介されています。

kliegl_Atype_1922

 

なぜクリーグル社かと言うと、日本の舞台照明の黎明期にはクリーグル社の灯体が使われていたと思われる記述がいくつかあるためです。たとえば、吉井澄雄(2018)『照明家人生 劇団四季から世界へ』p.97には、明治時代に市川左団次(おそらく九代目)がアメリカからクリーグル製のエフェクトマシンを持ち帰ったという内容が記述されています。

 

さらに、前述した丸茂電機のカタログを見ると、明らかにクリーグル風のスポットライトが掲載されています。
marumo_kliegl_hikaku1
ほぼそのままコピーしていますね。

 

このことから、「A型コンセントはアメリカ起源 (クリーグル起源) であり、灯体と一緒に日本に輸入されたものが国産化に至った」という仮説が考えられるでしょう。

 

 

最後にもう一歩踏み込んで、クリーグル社はいつKLIEGLコンセントを作ったのか (A型の真の初出) を調べてみましょう。
KLIEGL Plugなどと創業者名を掲げた商品なので、特許は出しているでしょう。

 

Google Patentsで調べてみると、すぐに見つかりました。
1907年出願の、US963733A “Plug-switch”
https://patents.google.com/patent/US963733A/

残念ながら寸法図が載っていないので、A型や現在のC型と同じ大きさかどうか分かりませんが、形状としては確かに「A型の原型」と言えるものではないでしょうか。
よって、仮説レベルではありますが、「A型・現在のC型は、1907年に特許出願されたJ.H.Klieglのプラグに由来する」と言えそうです。

 

まとめ

  • 舞台照明で使われるC型コネクタは、A型コネクタを改良したものである。(ミニCを除く)
  • そのA型コネクタは1930年代すでに日本で使われており、元をたどると海外からの輸入品である
  • 輸入元はおそらくアメリカ・クリーグル社で、灯体と一緒に日本に持ち込まれた
  • クリーグルは1907年にプラグの特許を出しており、C型の起源を遡るとここにたどり着く (仮説)

ちなみに、使われなくなった「S型」についても、クリーグル社のカタログにそれっぽいものがあり、こちらはアメリカで現在主流である「Stage Pin」の原型である可能性があります。

 

Wikipedia – Stage pin connector
https://en.wikipedia.org/wiki/Stage_pin_connector

もし本当だとすれば、同じクリーグル社発祥の2種類のコンセントが日本とアメリカで使われていることになり、壮大な歴史の流れを感じざるを得ませんね……

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この記事を書いた人

高校演劇~大学の学生劇団で照明を経験し、現在は会社員の傍らアマチュアで舞台照明を継続。第39回日本照明家協会賞舞台部門新人賞。非劇場空間の劇場化、舞台照明の歴史が得意。

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