舞台照明の歴史上存在した「S型」と呼ばれるコネクタについて、誰かが調べるかもしれないので記載しておきます。なおS型はすでに絶滅しており、現場で使用する確率は限りなく0%に近いです。
S型コネクタ |
【コネクターの基礎用語】
オス(♂)…「差し込む側」のコネクタ
メス(♀)…「差し込まれる側」のコネクタ
プラグ…オス(♂)と同じ意味
コネクタボディ、ボディ、ボデー…メス(♀)側のうち、延長コードの♀側などに使うもの
コンセント…メス(♀)側のうち、壁などに埋め込まれたり固定されているもの
定格電圧…その電圧までは恒常的にかけてよい電圧。舞台用コネクタは「125V」か「250V」。
※実際に流れてくる電気の電圧ではない。日本の劇場で実際に流れてくる電気は 100V か 200V。
定格電流…その電流までは恒常的に流してよい電流。定格電圧とともに、コネクタに「125V 20A」などと刻印してある。
形状と特徴
S型は電極が丸いポール型で、ヨーロッパや韓国等で使われているコンセントに似ています。しかし、舞台用かつ大電流用ということもあり、電極の太さがかなり太いです。
筆者の手元にある丸茂電機の昭和13年 (1938年) 版カタログでは、オス側の電極 (ポール) 部分がケースに覆われた構造になっていますが、この構造ではバトンやフロアのコンセント側の構造が複雑になるので、実際にはポールが露出したものが使われていたのではないかと推測されます。
S型コンセントの歴史
「舞台用「C型コンセント」の歴史を調べてみる」の記事で紹介したA型コンセントの歴史と共通している部分が多いですが、A型がその後C型になり現在でも舞台照明で使われているのに対して、S型は1960年代までに新規施工としては消滅したものと考えられます。
S型が登場する文献資料は、上記丸茂電機の戦前カタログも含めて非常に少ないですが、C型30Aの規格を定めた JATET-L-5040「演出空間専用差込接続器 C型30A規格」の中に、わずかにS型の歴史について触れた箇所があります。
特に、差込接続器は、舞台照明機材として必要不可欠であることから、法規の整備に準拠して昭和23年 (1948年) 国内生産が行われることとなった。
当初生産品は、A型30A差込接続器 (2P接地極無し、現在のC型接続器の原形) とS型30A差込接続器 (2P接地極無し、接触子がポール型) であったが、S型は、暗転時などの悪条件での着脱に扱い難い点がありA型が差込接続器の主流となった。
JATET-L-5040-5, 演出空間専用差込接続器 C型30A規格, p.8
この記述が事実であれば、暗転時に着脱をしないサスバトン用コンセントとして生き残っても良かったと思いますが、サスバトン用は民生品と共通のT型20Aコンセントが多く採用され、S型の居場所は無くなってしまったと言えるでしょう。
歴史に関する仮説
筆者の仮説ですが、この「S型コンセント」は、アメリカで使われている「Stage Pin」コネクタの親戚ではないかと推測しています。
アメリカのKriegl Bros. (クリーグル) 社の1936年版カタログに、「Kliegl Pin Plug Connectors」という名称で「Stage Pin」の原型のコネクタが登場しています。別のページにはA型によく似たコネクタも掲載されています。
当時の日本の状況を考えると、いくつかの文献、および戦前のカタログ等から、灯体のデザインはクリーグル社のものをかなり参考にしていたと考えられるので、同様にA型、S型コンセントの形状についてもクリーグル社のコンセントを参考に作られた可能性が高いと考えています。
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