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【照明ケーススタディ】No.15「野外でストレートプレイの演劇をする」

※照明ケーススタディは、筆者がこれまでに担当した照明プラン・オペレートの中から、一般化できる知見を紹介するシリーズです。
なるべく汎用性のある知見を紹介していくつもりですが、他の記事群に比べると「個」が強く出ることをご理解ください。



【公演データ】
本番時期:2018年8月

公演名:gekidanU主催「弔EXPO」
★複数団体による演劇フェス的な催し。

  • 舞台芸術創造機関SAI 「ROMANTIC+GROTESQUE」
  • gekidanU 「おと鳴り」
  • 百人キ画 「スワローズは夜空に舞って~1978年を、僕は忘れない…」

このほかに屋内公演もありましたが、本稿では割愛します。

会場:gekidanU野外劇場 (主宰の自宅)
筆者の立場:照明プランナー(大学時代から数えて、通算67回目) 兼 オペレーター

仕込み図: 
tomurai_tsuri_180714 
その他の書類:キューシート

【記事テーマについて】
東京に越してきてから3回目となる照明プラン&オペは、南千住の商店街にある民家での野外公演でした。
こうした催しについて近隣の皆様の理解が一定程度得られているということが奇跡であり、 「近所付き合い担当」でもあるgekidanU主宰・遠藤氏には頭の下がる思いです。

さて、今回のテーマは「野外でストレートプレイの演劇をする」。
野外イベントの照明と言うと、小規模でもコンサートものが多くなりがちですが、今回の演目は普通の会話劇と、 厳密にはストレートプレイではありませんが、小劇場系のアングラエンタメ芝居でした。

このような状況において、照明で気をつけた点や気付いたことを記述したいと思います。
ただし、昨年までは基本的に主催側で用意した簡易な投光器のみ3~4発程度で公演を行っていたことを念頭に置く必要があります。
本格的な照明を組むことが恒例化しているイベントとは、求められるものが質的/量的に異なるためです。

テーマが細分化できそうなので、以下の6つの小テーマに沿って記述します。
小テーマ:【環境光】、【基本明かり①】、【基本明かり②】、【効果明かり】、【卓周り】、【仕込みについて】

 

  • 【環境光】
    まず、明かりの配置にあたっては自然光・環境光を意識する必要がありました。
    客席上手側には18時に点灯する街灯があり、下手側にはアパートの通路明かりがありました。
    しかし幸いなことに、「暗転ができない」程度の軽微な影響にとどまり、演出照明を根本的に変更する必要までは無いと判断できました。
    また、当初日光を考慮して、プランメモに日の入り時間を記載していましたが、特に西日が射しこむ立地ではないので、夜合わせでプランニングして問題ありませんでした。
    環境光の影響が軽微であることが分かったので、以後はそれほど意識しなくなりました。

  • 【基本明かり①】
    基本明かりの選定にあたってまず意識したのは、「昨年までは投光器だけでやっていた」ということです。

    昨年までの写真を見るに、野外劇場と背景の「家」の演劇的強度が十分にあり、投光器が積極的な意味で「絵になって」いることが感じられました。 そのため、今回もあえて投光器を使用することとしました。
    あの色温度が絶妙に低く、粗野でオーガニックな明かりは、投光器にしか出せないと思ったためです。

    投光器はハロゲン500Wのものを新規購入し、200Wに換装しました。 これを図面の通り転がしで設置しました。図面上では3発ですが、客席がギリギリまであって設置とケーブル処理が難しいため、2発になってしまいました。

    なお、役割としては、劇場ではあまり行われなくなった「フットライトによる地明かり」と同じととらえています。
    このような明かりを「地明かり」的な役割と捉えることについては、以前バトンの全くない会議室で上からの地明かりが作れなかった時、フットライトを使用して不自然さを緩和した経験があるため、それほど抵抗感はありませんでした。

  • 【基本明かり②】
    投光器による“地明かり”のほかに、パーライトによる前明かりを3色設けました。(#B-2、#36、#77)

    しかし、フロントサイドで、しかもカミシモ1発ずつしかないので、当然「センター奥の死にスペース」が発生します。
    (下図で「光があたっていない」と書いてある部分)
    center_oku_dead
    通常の劇場であればこれは基本明かりとして好ましくなく、カバーのため最低でもカミシモ2発ずつ用意するところですが、 今回は野外劇場特有の大雑把さと、舞台美術の配置上「死にスペース」での演技がほぼ無かったのにも助けられ、問題になりませんでした。 こういうところが野外の面白さですね。

    なお、前明かりの#77は暗くてほとんど効きませんでしたが、隠し味的な効果がありました。 #36との混色具合で夕日のバリエーションを増やしたり、LEDと混ぜてより深みのある色味を作ることができたり……これはこれで良かったです。

  • 【効果明かり】
    ベランダの上、階段の上、3階の窓など、要所のスポット明かりは押さえました。(役割としてはエリア地明かりとも呼べるので、意識は基本明かりに近いですが…)
    gekidanU_gaikan
    また、フロントサイドと同じような位置にLED灯体 (Dotz Par) をカミシモ1発ずつ設けました。
    これは上述した#77などハロゲンの明かりと組み合わせて、見せ場で非常に効果的な演出を行うことができました。
    gekidanU_LED
    他に、「強力なLED懐中電灯」をピンスポ (フォロースポット) のように使用することも行いました。 これは旅劇団出身の演出家によるアイデアですが、なかなか好評でした。
    特に、通常のピンだと見苦しくなりがちな手ブレによる照射揺れが、 懐中電灯だと自然に見えて、「あの不安定な感じが良かった」という評価をいただきました。

  • 【卓周り】
    基本的に調光ユニットは小型のDMXユニットのため、卓はDoctorMX + MIDIコントローラーとしました。
    ただし、野外ということもあり、雨天による公演規模縮小時や重大なトラブルにそなえ、ディムパックも用意しました。
    結局ディムパックは、直回路を活かして分電盤としての活躍がメインでしたが、冗長性の確保には役立ったと思います。
    gekidanU_taku

  • 【仕込み】
    仕込みにあたっては、完全仮設のため灯体の基準位置が無いことに留意しました。
    劇場のように「○○バトンに吊ればOK」という基準がないのです。そこで、前日夜に実際の灯体を1発だけ持って行って、照射範囲の見当を付けました。

    また、野外特有の「雨対策」は、「LED灯体と調光ユニットは袋で覆う」、「コネクタ接続部はビニテ巻」、「ハロゲンパーライトは防滴タイプなので放置」という方針でした。これが正しかったのか、プロの眼から見ると甘いのか、わかりませんが…

【その他の感想・知見】

  • ツイッターのフォロワーの方から、「実際の灯体数以上に仕込まれているように見えた」という言葉をいただきました。こうしたリソースの少ない環境では常に心掛けていることなので、とても嬉しかったです。
  • 仕込みに先立って、電気工事を行い、分電盤にイベント用仮設主幹を増設しました。
    これがあるとないとでは、仕込み当日の作業効率が全く違います。
    このようなことができるのも個人宅での公演ならではですし、個人宅の割には住宅用ではなく業務用の立派な分電盤が付いていたのもありがたかったです。
     gekidanU_bunden
    (電力会社とはどういう契約になっているんだ……?)
  • 猫がかわいい。お寿司を狙うシャガくん(♂)
    IMG_1425
  • 向かいの蕎麦屋さんが脚立を貸してくださったので、お礼に食べに行きました。おいしかった!

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この記事を書いた人

高校演劇~大学の学生劇団で照明を経験し、現在は会社員の傍らアマチュアで舞台照明を継続。第39回日本照明家協会賞舞台部門新人賞。非劇場空間の劇場化、舞台照明の歴史が得意。

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