MENU

パッチって何だろう

英語の patch を辞書で引いてみましょう。「つぎはぎ用のあて布」といった裁縫関係の意味が出てくると思います。なんとなく、「何かと何かを縫い付ける・結びつける」といった意味があるようです。

舞台照明の文脈では、パッチとは「フェーダー番号と灯体を結びつけること」を指します。

「フェーダー1番を上げたら、灯体Aが点灯した」という場合、
「灯体Aは、フェーダー1番にパッチされている」と表現します。

 

※この記事で言う「パッチ」とは、すべていわゆる「ソフトパッチ」のことを指します。ソフトパッチ以外のパッチ方法として「強電パッチ」がありますが、それについては記事最下部をご覧ください。

目次

フェーダー番号とディマー番号の対応を決める

正確に言えば、パッチとは「フェーダー番号とディマー番号を結びつける」ことです。

ここでもう一度、調光卓と調光ユニットの関係を思い出しましょう。

con_unit1.png

 

調光卓は、調光ユニットに向かって「調光回路○番は○○%にしてね!」という命令を送っています。

ここで言う「調光回路」は、「ディマー」と同じ意味です。調光ユニットのそれぞれの調光回路には、必ず番号(ディマー番号)が付けられています。

 

つまり、番号のついているものが2つあるわけですね。

調光卓のフェーダー番号」と、「調光ユニットのディマー番号」。

 

ふつうに考えれば、フェーダー番号ディマー番号は同じになると思うでしょう。

フェーダー1番を操作すればディマー1番の明るさが変わり、

フェーダー2番を操作すればディマー2番の明るさが変わり、……

patchnew1
↑フェーダー番号=ディマー番号だったら、こうなるはず

 

でも、この「フェーダー番号」と「ディマー番号」の対応を入れ替えたり、1本のフェーダーで複数のディマーを操作することができたりしたら、何かと便利じゃないでしょうか?

フェーダー1番を上げたらディマーの3番と4番が点灯する、とか。

 

……そんな願いを実現するのが、「パッチ」という作業です。
パッチは、調光卓に「フェーダー○番が上がったら、ディマーの△番に命令を出すんだよ!」ということを教え込むことで成立します。

 

 

patch8new

 

また、公共ホールや大劇場に多いのですが、調光卓を起動したばかりの状態では「パッチがすべて外れている」、つまり「どのフェーダーを上げても何も点灯しない」状態であることもあります。

この場合は、「パッチをしないと何も点灯できない」ということになります。

パッチに関して「しないと何も点灯できない」と記述されているウェブサイトや文献がちらほらありますが、きっとそのような調光卓を主に使っている人が書いたのでしょう。

パッチの目的

パッチをする目的は次の2つです。

  • フェーダーの順番を分かりやすくすること
  • 1本のフェーダーで複数のディマーを操作すること

 

常設の劇場について考えてみましょう。

常設の劇場では、舞台のいろいろな場所に「調光回路のコンセント」が伸びていますが、これらの調光用コンセントはディマーに直接つながっており、「ディマー番号=コンセント番号」になっています。

…となると、図1のような劇場ではどうなるでしょうか?

patch1.png
 

舞台下手に3回路、上手に3回路コンセントがあります。コンセント①番はディマー1番に、コンセント②番はディマー2番に繋がっています。

ある日の演目では、図2のような仕込みになりました。

patch2.png
 

もし、パッチが変更できなければ、調光卓のフェーダーの順番はどのようになるでしょうか?

おそらく、下図のようになるでしょう。

patch3.png
うーん、なんだかごちゃごちゃしていますね。
 

同じ色の灯体は同じフェーダーにしたい!」
「フェーダー3番が空白で気持ち悪いから、詰めたい!」と願っても、

パッチが変更できなければ、このまま我慢するしかありません。

ここで、調光卓にパッチ機能が付いていれば、この願いは叶えられますね。

 

また、教室での演劇など、小規模な仮設の現場では、「ディマー1回路につき500Wまで」など、ディマーの容量が厳しい場合もあります。

そのような時、パッチ機能のある調光卓なら、「1本のフェーダーに複数のディマーを割り当てられる」ので、
「同時に操作したいのに、ディマー容量のせいでフェーダーを分けなければならない」問題から解放されます。

 

パッチの考え方と目的をご理解いただけたでしょうか。

 

パッチはあくまで調光卓の機能なので、実際のパッチ作業の方法については、調光卓によって異なります。

実際のパッチ作業について、詳しくは次の記事をご覧ください。

パッチ機能のない調光卓・強電パッチ

もちろん、パッチができない(フェーダー番号とディマー番号の対応を変えられない)調光卓もあります。画像のようなシンプルな調光卓は、パッチ機能がありません。

liteputer_cx803
↑パッチ機能のない調光卓

 

また、現在のようにコンピュータ技術が発達する前は、当然ここで紹介したような「調光卓のメモリーにパッチを覚えさせる」方法は使えませんでした。

比較的古い大劇場では、ここで紹介したパッチとは異なる、「強電パッチ」という方法を使うことがあります。

強電パッチについて、詳しくはこちらの記事をご覧ください。→強電パッチについて

追記:
ちなみに、調光卓によっては、逆に「1つのディマーを2本のフェーダーに割り当てる」ことができる場合もあります。
「フェーダー1番でも9番でも、ディマー2番を操作できる」状態です。
これを「ダブルパッチ」といいますが、これができる調光卓は限られており、例外です。
patch_double.png

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

高校演劇~大学の学生劇団で照明を経験し、現在は会社員の傍らアマチュアで舞台照明を継続。第39回日本照明家協会賞舞台部門新人賞。非劇場空間の劇場化、舞台照明の歴史が得意。

コメント

コメントする

目次