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【灯体の種類】ACって何だ

ACって、交流電源とか公共広告機構ではなくて、灯体の種類として「AC」という名前のものがあります。
光学系による灯体分類上は、灯体 > スポットライト > ミラーによる集光 の中に入りますが、少し特殊な灯体ですので以下に解説します。

 

AC (灯体の種類)

GE4552_28V250W    matsumura_ACL4

目次

光の特徴と使われ方

ACは、とにかくビームの鋭い灯体です。PARライトのVN (ベリーナロー) よりもさらに狭い、6°~8°程度の光の広がりを持ちます。体感的にはほぼ平行光と言っても良いでしょう。
また、後述する「点灯電圧が低い」という特徴から、フィラメントがかなり小さく「点」に近い光源となっており、VNのようにフィラメント自体の影がゲジゲジ状に見えてしまうということもほとんどありません。

 

このため、このビームの細さ・鋭さを活かし「空間を切り裂く」ようなイメージで、光の筋を見せる目的で使われます。ビーム専用という性質上、スモークと組み合わせて使うことが多い灯体です。また、ヨーロッパの一部の劇場では、フォロースポットとして使われることもあるそうです (通称「スヴォボダライト」)

 

さらに、これも点灯電圧の低さに由来しますが、カットイン時の応答性が良いのも特徴です。一般的な100V500W程度の電球は、カットインしても「ジワッ」と点灯するのに対し、ACは (LEDほどではありませんが) すぐに「ペカッ」と点灯してくれます。
この特徴を活かし、高速で点滅するチェイスでも遅れずにチカチカすることができます。

 

名前の由来と灯体の特徴

ACはACLとも呼ばれ、「AirCraft Landing light」(飛行機の着陸ライト) の意味です。

 

灯体の形態としては2種類あり、一つはパーライトの電球の一種としてのAC、もう一つは独立した灯体としてのACです。
GE4552_matsumuraAC
▲左:PARライトの電球としての「AC」/右:独立した灯体としての「AC」

 

名前の由来についてですが、飛行機には「着陸灯」と呼ばれる、夜間飛行時に滑走路を照らす電球が搭載されています。
この電球は舞台照明と共通するPAR36やPAR64規格が使われており、長い滑走路を遠くまで照らせるようにビーム角度の細い電球を使っていたことから、舞台照明のビーム演出に転用されるようになりました。

 

(※PAR電球は特に舞台照明専用の規格というわけではなく、バイクの前照灯にもPAR36が使われていたりします)

 

よって本来の「AC」は「パーライトの電球としてのAC」を指します。

 

後に、主に日本国内でACと同じ特徴を持った専用の灯体が作られました。こちらも「AC」と呼ばれますが、パーライトのようにミラー一体型の電球を使用するのではなく、ミラーのある灯体に別で小型電球を入れるスタイルとなっています。

 

代表的なメーカーは以下の通りです。

 

【PAR電球としてのAC】

  • GE (型番: 4552など)
  • ウシオライティング (型番: JP28V250WC/VN/S6/S)

【独立した灯体としてのAC】

  • 松村電機 “ACL-4A” / “ACL-8”
  • 松下電工 (現・Panasonic) “ステージビーム”
  • 日本応用光学 (Beamax) “VN-250”

 

ローボルト点灯=4発直列接続!

さて、もう一つACの大きな特徴として、電球の点灯電圧が低いということが挙げられます。

 

日本で手に入る通常の電球は100Vで点灯するのに対し、ACの電球は定格24Vまたは28Vとなっています。
当然、何も考えず普通のコンセントに刺した場合、過電圧となり一瞬で球切れになってしまいます。

 

そこで、正しく点灯させるために2つの選択肢が考えられます。

 

ひとつは、「変圧器」を使って電圧を下げること。電気的には最も正当な方法ですが、巻線コイルの塊でズッシリ重い変圧器を灯体と一緒に持ち歩くのは非常にナンセンスです。フォロースポットにするなど、どうしても単独で使いたい場合にはこれしか方法がありません。

 

もう一つは、同じ電球を「4灯直列」に接続し、1灯あたりを 100÷4=25V として運用する方法です。「シリーズ結線」とも呼ばれ、舞台照明ではこちらの方法で接続します。
series_cable

 

ケーブルの見た目としては上のようにプラグ (♂) 1個に対しコネクタボディ (♀) が4個連なっている状態になりますが、外観的には並列つなぎ (普通の4分岐ケーブル) でもほぼ同じ外観で作成することが可能で、一見して区別がつきません。

 

しかし、直列と並列ではケーブル作成時の結線方法が全く異なります。
series_pallarel

 

上の図で、②の並列ケーブルと③の直列ケーブルは、外観的にはほぼ同じになりますが、結線方法が異なることが分かると思います。③のようなケーブルを作った場合、4つのメス口にすべて灯体を刺した時に初めて回路が成立し、かつ4つの電球は直列に繋がれた状態となります。

 

このとき注意点は、異なるワット数の電球を混ぜて接続しないということです。
1灯あたり「100V÷4=25V」という単純な計算式が成立するのは、4つの電球が全て同じ定格電圧・同じワット数である(つまり、フィラメントの抵抗値が同じ)状態の時だけです。
それ以外の場合は、フィラメントの抵抗値の比に応じて電圧が按分されてしまいます。
通常はACの電球と言えば250Wのものしか使わないので問題になりませんが、世の中には450WのAC球も存在しますし、誤って100V用の電球を混在させてしまった場合も電圧の比が乱れてしまうため、意識しておきましょう。

 

また、誤接続を防ぐためにAC球は専用のコネクタを使用することが推奨されます。
特に決まった規格はありませんが、他で使われていないマイナーなコネクタを採用することが望ましいでしょう。

 

例として、松村電機製のAC灯体に付属してくる専用のコネクタボックスを紹介します。オス口は100Vに接続するためT型になっていますが、直列用の4つのコネクタは NEMA 6-15 準拠の [ ━ o ━ ] コネクタになっています。
series_concent

 

個人的には、採用例を聞いたことはありませんが、Panasonicが作っている「遊技台用コネクタ」が良いのではないかと思います。
パチンコ台の電源に使われる、AC24V専用のコネクタのようです。平行コネクタの片方の刃を斜めにしたような形ですね。
WP7200_yuugidai
▲Panasonic WP7200。対応するオス側はWP7100

 

ACのメリット・デメリット

ここまでACの特徴や使い方をまとめてきましたが、だいぶクセの強い灯体であることが何となくお分かりいただけるかと思います。

 

以下に、ACを使用するメリットとデメリットを列挙してみましょう。

 

【メリット】

  • ビームが鋭く、光線自体を見せる目的には最適
  • カットインの応答性が良い
    …この2点は上で述べた通りですね。

     

  • 250Wでも500W相当の明るさ感がある
    …これも地味ですが大きなメリットです。照射範囲が狭く輝度が非常に高いので、実際のワット数より明るく見えます。同じ4発なら、「500WのVNを4発=2kW」よりは「250WACを直列4発=1kW」の方が回路容量の節約になるため、大量の吊り込みには適していると言えます。

【デメリット】

  • 4灯セットでしか運用できない
    …直列で運用するという性質上、避けられない運命です。

     

  • 100V電源への誤接続リスク
    …ローボルト電球を使うという性質上、これも避けられないリスクです。

     

  • 電球の寿命が短い
    …通常100V用の電球が寿命200~500時間程度に対し、AC球は定格寿命が50時間しかありません。

     

  • 1灯球切れすると4灯とも消灯してしまう
    …直列接続のため、どれか1灯でも球切れor断線してしまうと、全体の回路が成立しなくなってしまいます。このため、どれが球切れしたのか特定することすらも困難です。AC専用灯体の中には、電球とは別にネオン管を設け、球切れした灯体を特定できるようにしているものもあります。
    national_stagebeam_neon
    ▲松下電工「ステージビーム」

     

レインライト、スピナー、スイングライト

通常「AC」と言えば、250W以上のワット数のものを指しますが、同じく低電圧のPAR36電球を使用した灯体があります。

 

ビームの細さを活かして、クラブ・ディスコ・カラオケなどの盛り上げ役として存在した灯体で、代表的なものにレインライトスピナースイングライトがあります。

このような灯体はいずれも、定格6~12V、30W~50W程度の出力の弱い電球を採用していました。細いビームが空間に走ればよいという目的で、それほどワット数を必要としなかったためと思われます。

 

それぞれ特徴を下記に挙げます。

  • レインライト
    上で紹介したACと同じです。ミラーボールなどディスコ向けの照明を得意としていた日照 (日本照明社) が、12V30WのACをレインライトと呼んでいます。なお、灯体の名前ではなく「明かりの名前」としてレインライトと言う場合は、出力に関わらずAC灯体を大量に並べて “光線の雨” を作る表現技法を指します。

     

  • スピナー
    レインライトに左右の首振りモーター、もしくはパトライトのように回転し続ける機構が付いた灯体です。電源を入れると勝手に首振りor回転を続けます。スピナーは大規模コンサートでもよく使われたため、250Wのものが存在しました。

     

  • スイングライト
    ボーダーライトのように横に8~9個電球を並べ、上下の首振りモーターが付いた灯体です。

いずれも「ビームが空間の中を飛び交い、動き回る」という効果を主眼に置いた灯体ですが、安価なムービングライトが普及した今となっては、あまり使われない灯体です。

おまけ

最後に、松村電機と松下電工 (Panasonic) のカタログから、ACのページを掲載します。宣伝文句などから、どのような世界観を持って作られた灯体なのか分かると思います。

 

matsumura_ACL-8
▲松村電機 ACL-8

 

matsumura_ACL-4
▲松村電機 ACL-4A

 

national_stagebeam
▲松下電工 ステージビーム

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この記事を書いた人

高校演劇~大学の学生劇団で照明を経験し、現在は会社員の傍らアマチュアで舞台照明を継続。第39回日本照明家協会賞舞台部門新人賞。非劇場空間の劇場化、舞台照明の歴史が得意。

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