教室・会議室・民家など非劇場空間における舞台照明について思うことを述べたいと思います。2020年に2回ほど、ワークショップの場でお話しした内容です。非劇場空間ではまともな照明効果は作れないと思っている人のヒントになればいいなと思います。
舞台照明 ≠ 舞台照明機材?
そもそも論ですが、舞台照明は舞台照明機材が無いとできない (または、やってはいけない) のでしょうか?
このことを考える時、次のような写真を見てみましょう。
これはある大学の講堂の舞台照明用バトンを写したものです。よく見ると、確かに機材は立派な舞台照明用スポットライトを使用していますが、灯体の向き、当て方などに意図が感じられず、バラバラのあさっての方向を向いていることが分かります。
このような状態の時、「舞台照明機材を使っていても、舞台照明をしていない」のではないかと思います。
すなわち、舞台照明というのは機材があれば成立するのではなく、きちんと
- 意志を持って
- 演出上の目的で
- 制御された
ものを舞台照明と呼ぶのではないか?という考え方です。
反対に、舞台照明機材が無くても舞台照明をしている例というのも存在します。
こちらの写真は、民家の一室で演劇公演をするにあたり仮設した照明機材です。
これは明らかに照射する向きが揃えられていて、シュート作業がされた状態であることがよく分かると思います。しかし、使っている機材としては1台を除き、ホームセンターで売っているクリップライトに、これまたホームセンターで売っているビーム電球を付けたものです。
この場合、灯体はどう考えても民生品であり、舞台照明用の機材を使っていないことになります。しかし前述したように、これは私が意志を持って、演出上の目的で、制御している灯体なので、舞台照明をしていると言うことができるでしょう。
これが、舞台照明機材を使わなくても舞台照明をしている例です。
このように、まずは「専用の機材を使わなければ」という固定観念から逃げていくことが、非劇場空間での照明を考える第一歩かなと思います。
舞台照明の特徴
では、舞台照明の特徴が「舞台照明機材を使うこと」ではないのだとすれば、何が舞台照明の特徴なのでしょうか。
まず第一の特徴は、調光ができることだと思います。
調光とは、ある灯体の明るさを0%から100%まで自由に調整できることを指します。舞台照明演出においては調光のおかげで、
- 様々な明るさの状態を組み合わせて照明のシーン (絵/look) を作る
- あるシーンから次のシーンに至るまでの変化方法を決める (ゆっくり変化していくのか、急にパッと変わるのか)
という2点について自由度が与えられています。
次に2番目の特徴は、明かりの要素をコントロールできるということでしょう。ここで言う要素とは、
- 明るさ
- 光質(配光特性)
- 広さ(照射範囲)
- 方向性
- 明かりの色
- それらの変わり方
といったものを指します。すなわち、「どんな色で、何を、どう見せる (あるいは見せない)」のか、照明プランナーが決めることができるし、それが求められていると言ってよいでしょう。
これらの特徴は、舞台照明機材を使わずとも達成することができることは、想像に難くありません。
では、なぜ公演は舞台照明設備の整った劇場で、舞台照明機材を使って行われることが好まれているのでしょうか?
……それは、前述したような舞台照明の特徴は、舞台照明機材を使った方が実現しやすいからだと思います。
たとえば、舞台照明用のレンズスポットライトには、広さ (照射範囲) を変えられるように電球とレンズの位置関係を調整できる機構が付いています。方向性を変えられるように、アーム (ヨーク) 機構を使って首振りができるようになっています。
さらに、色を変えられるように、灯体前面にカラーフィルターの差込枠が付いています。明るさを繊細に変えるために、調光卓と調光ユニットがあります。
このように、舞台照明機材は、舞台照明の特徴を実現しやすいような配慮が行き届いていることが分かります。劇場の設備も、天井にバトンがあったり、余計な外光が入らないように二重扉になっていたりしますが、これも同じような配慮ですね。
民生用の一般的な照明器具や、劇場でない空間では、こうした配慮が十分でないことも多いです。
しかし、裏を返せば、(舞台照明の特徴を) 実現しにくくて良ければ、非劇場空間で/非舞台用照明器具を使って舞台照明をすること自体には何ら差し支えないと言っても過言ではないでしょう。
……そう考えると、工夫次第でどうにでもなりそうな予感がしますし、ワクワクしてきませんか?
まとめ
この記事では、劇場あるいは非劇場空間での舞台照明について考える第一歩として
- 舞台照明 ≠ 舞台照明機材
- 舞台照明の特徴=「調光」、「明かりの要素のコントロール」
- 劇場空間/舞台照明器具は、こうした特徴を実現しやすくするための道具
- 実現しにくくて良ければ、必須ではない。非劇場空間で舞台照明は、「できる」
という内容を扱いました。
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