舞台照明では、「フェーダーを操作して明るさを変える」ことを必ずしますよね。
この仕組みには、「調光卓」と「調光ユニット」という2つの部分が常に関わっています。それについて解説します。
「遠隔操作」は人類の夢!
昔、ロウソクの炎で舞台を照らしていた時代、天井に吊るしてあるロウソクを人間が吹き消しに行くのは大変なので、ロウソクを覆う金属のフタにヒモを付けて、遠くからロウソクを消せるようにしていました。
やがてガス灯が使われるようになると、ガスの元栓を何十個も1ヶ所にまとめて、舞台のいろいろな場所の明るさを1ヶ所の照明室で調整できるようになりました。
電気を使って照明をするようになっても、やはり人間は同じことを考えました。初めのうちは、可変抵抗器(電極の位置によって、抵抗の大きさが変わる)にワイヤーと滑車を付けて、電極を遠くから上下させていました。しかもその抵抗器は、初めは塩水だったというから驚きです。
日本ではその後、抵抗器ではなく可変変圧器(電極の位置によって、電圧が変わる。英名オートトランス)を使った方法に変わりましたが、「ワイヤーと滑車で電極を引っ張る」という仕組みは変わらず、1960年代の初めまでこの方式が主流でした。
←旧式調光器。③の部分(フェーダー)を操作すると、ワイヤーで抵抗器②の電極が引っ張られて上下し、電圧(=明るさ)が変わる。
←某所に現存する、旧式の調光操作盤。上の③の部分に相当。
←このようにワイヤーと滑車を使って、電極を上げ下げする
このように、人間はずっと、
「どうにかして、両手が届く範囲で全部操作したい!」
「遠くの灯体も近くの灯体も、全部この位置から操作したい!」
と願い続けてきました。
つまり、
「操作をする部分」と、「実際に明るさを変える部分」は別々の方が便利だよね、と考え続けてきたのです。
現在は、調光卓で操作をして、調光ユニットが電圧を変える
現在の舞台照明では、
「操作をする部分」にあたる機器を「調光卓」、
「実際に明るさを変える部分」にあたる機器を「調光ユニット」と呼びます。
現在では、調光卓のフェーダーの値を読み取って、命令信号に変えて送信し、調光ユニットは送られてきた命令信号にしたがって電圧を変える、という方法が主流です。
信号線方式だと、調光卓と調光ユニットの間には細い信号線しかないので、スッキリしますよね。
命令信号の規格はいろいろなものがありましたが、2014年現在では、「DMX(ディーエムエックス)512」という規格のデジタル信号が世界で一番使われています。
デジタル信号というと高いプロ用の機材を思い浮かべるかもしれませんが、そんなことはありません。「DMX512」信号に対応した調光卓や調光ユニットは、安いものでは10,000円程度のものもあり、アマチュア劇団でも簡単に買えます。
▲ DMX信号を使った調光の仕組み。調光卓は「○番の調光回路の明るさは○○にせよ」という命令のみを送り、それを受け取って電圧を変化させるのは調光ユニットの役目。
調光ユニット一体型の調光卓
ここまで読んで、「うちの劇団はそんなの使ってないぞ」と思われた方もいるかもしれません。
下の写真のような「調光器」を使っている劇団さんは、けっこう多いと思います。
これらはすべて、「調光卓と調光ユニットが一体になった機器」です。一つの箱の中に調光卓と調光ユニットが両方入っているというだけで、基本的な仕組みは同じです。
▲フェーダー一体型調光ユニット。一番右は家庭用調光スイッチ
小劇場や学校の教室など狭い空間では、遠隔操作しなくてもそれほどデメリットが無いので、お手軽な一体型調光器がよく使われるのです。
遠隔操作は人類の夢!とか言っておきながら変な終わり方になってしまいましたが、
「調光卓と調光ユニットの2つがある」という意識を持っておいた方が、どんな大劇場に行っても同じ考え方ができるので、怖がらずに済むのではないでしょうか。
客席数40席の小劇場でも、1000席の大ホールでも、仕組みは同じ。
アマチュア劇団が公演をする場所って本当に様々だと思うので、自分が普段やっている劇場以外でも同じ仕組みで出来てる!怖くない!という意識は大切だと思います。
次回記事>>調光ユニットの役割
【参考文献】
旧式調光器の模式図…立木定彦『舞台照明のドラマツルギー』(リブロポート,1994) p231
DMX調光卓・調光ユニットなどの画像…サウンドハウス( http://www.soundhouse.co.jp/ )
ディムパックTZ-6Dの画像…丸茂電機( http://www.marumo.co.jp/ )
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コメント
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[…] 御はリモコンではなく、照明卓で実施できたら最高ではないでしょうか?なぜなら調光卓と調光ユニットの記事で述べたように、究極的には照明卓で何でも一括操作できるようになるこ […]