Twitterでは何度か言及したことがあるのですが、一度だけ、明らかに設計ミスとしか言いようのない強電パッチ設備に遭遇したことがあります。そのことについてお話しします。
一般的な強電パッチ盤
少しレトロなホールでは、まだまだ強電パッチ盤が現役の場合が少なくありません。強電パッチとは、別の記事でも解説している通り、現代的な意味のパッチ(調光卓のソフト上で行われるパッチ)ではなく、調光ユニットとコンセントの対応を物理的・電気的に決定するパッチ方式です。
一般的な強電パッチ盤は、上の写真のような単極 (1ピン) プラグのオスメスの組合せです。当然、一般のコンセントと同じように、感電防止のため出力側 (電気が出てくる方) をメスとしています。
ホールの規模にもよりますが、調光ユニットは24ch~80ch規模、これに対し回路 (コンセント番号) の数は2倍以上あるのが通常です。強電パッチ全盛期はディマー自体が高価だったため、その公演で使う回路にのみディマーを割り当てるという発想で、このため回路数に対しディマー数は大幅に少ないのが一般的なのです。
上の写真は私が修士課程で通っていた大学の講堂ですが、ディマー30chに対し回路は80回路あります。
ここまでは普通の強電パッチ盤の紹介です。
おかしい強電パッチ盤
次に、本題である「設計ミスの強電パッチ盤」を紹介します。おそらく1980年代前半の設備と思われます。
ちょっと一見してどうなっているのか分かりづらいのですが、
下の補足画像で赤枠の部分がディマー番号(1~10)、水色の部分が回路(13回路)となっています。
……もう、この時点で多少電気的な知識のある方ならツッコミどころに気付くと思いますが、あえて文面にして列挙するなら、以下でしょう。
- 入力と出力が両方オス
この時点で混乱必至です。うっかりディマー出力をディマー出力に接続してしまうこともあり得ます。しかも更に悪いのが、両方ともオスだということ。パッチケーブルを接続していない状態では、出力端子 (=通電しているオス) が常に露出した状態となります。フェーダーが上がっていれば、いつでも感電できます。まともな盤屋さんならこんな施工はしないと思いますが… - マイナーなコネクタを使用している
舞台照明では見慣れないコネクタが使われています。この記事の最初に出てきた、強電パッチ盤で一般的な単極プラグを採用しない理由が何かあるのでしょうか。もっと言うと、この設備は1回路30Aなので、C型30A (年代によってはA型) でも良いはずです。
ちなみにこのような銀色の丸型コネクタを総称してメタルコンセント (メタコン) と呼びますが、このパッチ盤はメタコンの中でもマイナーなダイドー電子工業製が使われています。なぜ……なぜ……。 - ディマー10に対し回路13。パッチ盤いる?
これを言ってしまうと元も子も無いのですが……。最初に述べたように、強電パッチというのは回路数に対して大幅に少ないディマー数を演目に応じて有効に使いまわす手段です。にもかかわらず、この設備はディマー数10に対し回路が13回路しかありません。このパッチ盤を作る予算があるなら、ディマーを3ch追加した方が良かったのではないでしょうか。 - コンモできない
これも強電パッチ盤の意義に関連しますが、通常はディマー出力 (メス側) が3~4口ずつあり、ディマー容量の許す範囲で、簡単にコンモが作れるようになっています。ところがこの設備では、ディマー数10に対し出力コンセントの数も10個しかないので、コンモができません。
というところでしょうか。とにかく突っ込みどころが多すぎます。会館の名誉のため場所は伏せますが、大人の事情があったのか何なのか、ここまで「強電パッチ盤とは何たるか」を理解しないで作られた設備も珍しいと思います。
ギャラリー
▲National製と思しき10ch調光卓。10ch目は常時フルだそうです。トライアックを壊してしまったのでしょうか。こんな簡素な壁付け卓の隣に仰々しい強電パッチ盤が居座っているアンバランス感も面白いです。
▲ダイドー電子工業製のメタルコンセントです。この設備に会うまでは知らなかったメーカーです。ロゴの部分を接写して、どうにか突き止めました。
▲T型♂―パッチ♀の変換ケーブルです。こんな設備でも使いこなそうとする現場の工夫ですね。しかし前述の通りパッチ盤は入力も出力も♂なので、ディマー出力をディマー出力にぶつけてしまう危険性があります。
▲盤の裏側は美しくまとめられています。やっぱり、こんな立派な盤を発注する予算があるならディマーを3ch増やせばよかったのではと思わざるを得ません。
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