タイトルの通りです。
元々、アニメ放送中の2013年春頃に書いて、大学の友人に公開した原稿があったのですが、それは紛失してしまったため、あらためて書きます。
確か当時は、「“素人が素人なりに頑張った舞台照明”の特徴をよく捉えて再現している」みたいな論評をしたような気がします。
いい?点けるよー?
バーン
CM明けのBパート序盤、リハーサルのシーンですね。
アニメで舞台照明が点灯するときのお約束の効果音(「バーン」みたいなやつ)をちょっとリアルにしたような音が出ますが、現実にはそういう音は出ません。
舞台照明はオン・オフのスイッチで操作されるわけではなく、音響のミキサーと同じくフェーダーで操作されるからです。
実際には、フェードインをすると電球のフィラメントが震えて唸る「ヴ~ン……」という音が聞こえますし、アニメのようにいきなりカットインすれば、ほとんど何も聞こえないか、一瞬「ヴン!」と球が唸る程度です。
ちなみに、このシーンで点灯しているのは「ピンスポ」ではありません。
ピンスポというのは、役者を追いかけて動かしながら照射する大型のスポットライト(フォロースポット)を言います。
画像出典:Follow spots in theatre, Youtube チャンネル”National Theatre Discover”
これはスポットライト1台につき1人必要なため、このシーンのように「点けるよ~」と言って調光室の操作盤から点灯できるものではありません。
また、照射角度も深すぎます。ピンスポは通常、調光室と同じ場所かその上のフロア、つまり客席最後列より後ろの上空にあるため、仰角20度くらいになります。舞台奥の幕まで影が伸びるくらい浅いイメージです。
ではアニメ中のスポットライトは何かと言うと、シーリングと呼ばれるものです。
画像:照明シミュレーター「Capture Argo」にて筆者作成
私たちは通常、蛍光灯などの「上からの光」で生活しています。話し相手の顔が見えるのは、蛍光灯の光が壁などに反射して相手に当たるからです。
しかし、舞台では演出上の都合で、床や壁は反射の少ない材質で作られています。また、使う照明器具も光が比較的散乱しづらいライトです。
このため、上からの光だけでは顔の凹凸が影になってしまい、観客から表情がよく見えません。
これを解決するために、客席上空から演者の顔に当てる光が必要とされています。これを「前明かり」と言いますが、前明かりの最も代表的なものがシーリングです。
画像:照明シミュレーター「Capture Argo」にて筆者作成
シーリングを構成する灯体のうち1灯だけを点灯すればこんな感じになります。まさに穂乃果が当たっているのはこれですね。
ちなみにシーリングは演者に正対する明かりなので非常に眩しいです。慣れた人はうまく目を逸らす技術を身につけていますが、初心者の中には「眩しい」と文句を言ってくる人もいます。
なお、シーリングというのは灯体の「役割の名前」であって、ピンスポと違ってそういう種類の専用機材があるわけではありません(汎用のスポットライトが使われます)。
ちなみに、後述しますが、このアニメの講堂はシーリングライトが2列(第1、第2シーリングまで)あるか、または上下(じょうげ)に2段構えのシーリングであることが分かるカットが出てきます。
ガラガラの講堂
3話の時点ではほとんど観客が入っていませんでしたね。
キャパシティは400人~600人程度でしょうか。地方の公共ホールで「小ホール」などと名前がついているクラスです。
女子校ということなので、もともと生徒数はそんなに大きくないのかもしれません。この規模で全校生徒を収容できるのでしょう。
空間の作りは、よくあるホールの特徴をよく抑えています。
が、フロントサイドライトがありません。
↑左右にある3灯×4段の明かりがフロントサイド
フロントサイドもシーリングと同じく前明かりの一種ですが、名前の通りサイド要素が加わるため、顔や衣装の印影が強調されてやや情緒的な明かりになります。
シーリングだけではどうしても平坦な明かりになりがちなので、通常はフロントサイドも併用されます。
「情緒的」なイメージを利用して、オレンジ(アンバー)色のフィルターを入れて夕日を再現するなど、情景・印象を補助する目的で使われることもあります。
この講堂にはそのフロントサイドがありません。
確かに小規模なホールではフロントサイドが省略されることも多いので、間違った描写というわけではありません。
また、フロントサイドのために開口部を作ることが音響特性に悪影響を与えるとして、音楽ホールなどではあえて作らないこともあります。
作品の舞台となる音ノ木坂学院の場合、学校設備であり、式典など照明演出を必要としない用途が中心になるでしょうから、合理的な判断かもしれません。
サスバトンは充実
舞台の上空からの明かりは、基本的にサスバトンと呼ばれるコンセント付きのパイプ(バトン)に吊り下げられます。
↑サスバトン。実際はもっと横に長く、同様の構造が舞台の間口いっぱいの長さまで伸びている
サスバトンは、電動もしくは手動で昇降できる仕組みになっていることがほとんどで、灯体の吊り替えをする時には手の届く高さまで降ろして作業します。
(演出不要の講演会などの目的でない限り、同じ灯体配置を使いまわすことはあり得ないので、演目が変われば必ずバトン降下から作業をスタートすることになります)
上の画像を見ると、サスバトンは4列あるようです。手前(客席に近い方)から順番に、1サス、2サス…と呼ばれます。
通常、この規模(=客席数と舞台の奥行き)のホールでは、サスバトンは2本が標準的です。
よって、サスバトンについてはかなり恵まれたホールであることが分かります。
しかし、上の画像では2サスしか点灯しておらず、灯体の配置や向きもあまり演出意志が感じられません。「常仕込み」(=公共ホールなどで、管理者側がデフォルトと定めた配置や向き。撤収時にはその状態に戻すことが求められる)のままであることが想像できます。
あるいは、管理の行き届かない学校設備の場合、「常仕込み」すらも決められておらず、本当に「適当な吊り位置」である可能性すらあります。
協力を申し出てくれたモブの生徒も、サスバトンの灯体を仕込める技量と時間は無かったようです。
ちなみに、舞台上に吊られているサスバトン関係以外の明かりとしては、ボーダーライトとアッパーホリゾントライトがありますが、どちらもアニメ中では登場しません。
後編へ続く…
ここまでは主に講堂の設備について考察を加えてきました。
後編では、挿入歌 『START:DASH!!』 が始まってからの照明演出について考察したいと思います。
元々ある照明設備というのは、あくまで「ポテンシャル」であり、その設備を活かすも殺すも、現場のスタッフ次第です。
後編では、裏方を手伝ってくれたモブの生徒たち(ヒデコ・フミコ・ミカという名前だそうです)が、少しでもライブを盛り上げようと努力をした部分も見ることができるでしょう。
後編に続かなかったらすみません……
【画像出典】
アニメ中の画像はすべて
アニメ『ラブライブ!』#3「ファーストライブ」テレビ放送映像より引用。
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