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【舞台照明・音響】なぜ、調光回路には電球しか繋いではいけないのか

初めてミニCやT型♂から平行♀への変換コードの存在を知って、そのあまりの単純さに驚き (だって、延長コードの片側のプラグの形状が違うというだけですから)、身近ないろいろな電気製品をミニCやTのコンセントに差してみたくなる時期は多くの人にあります。私にもありました。

 

しかし、ちょっと待ってください。

そのコンセントが調光回路 (灯体を差すと、フェーダーで明るさを調節できる回路) に所属している場合、そこには原則として、白熱電球 (ハロゲン電球も含む広義の“白熱電球”) や、電熱ヒーター(赤く光る電気ストーブ) などの「単純な負荷」しか差してはいけません。もちろんLED PARもダメです。(「調光器対応」と書かれたLED電球などはOKです)
このこと自体は聞いたことはあっても、「なぜダメなのか」までは知らない人もいると思います。最近は平行コンセントの調光ユニットも増えてきましたので、変換コードも必要とせず、照明さん以外の人が「しれっ」と、調光回路に掃除機やら音響機器を差してしまったりするかもしれません。
ちょっと解説を試みてみますので、よかったら見ていってください。

 

 

目次

理由1: 「フェーダーの100%」と「調光器を通していない」は違う

「しれっ」と差してしまう人に「ダメだよ」と指摘すると、「照明のフェーダーを100%にしてもらえば大丈夫なんじゃないの?」という答えが返ってきたりします。

大丈夫じゃないです。


「調光卓と調光ユニット」の記事 でも述べたとおり、調光回路(フェーダーで明るさを調節できる回路) とそうでない回路 (一般家庭のコンセント。調光回路に対して直回路と言います) は、「トライアック」という半導体素子が挟まっているかどうかという違いがあります。

調光素子

「フェーダーを100%(調光フル)」にしたところで、この調光素子が消えて無くなるわけはありませんから、必ず「調光素子を通った電気」が来ることになります。

そしてこの「調光フル」は、厳密な意味で「完全な100%」に設定(設計)されていない ことがほとんどです。

dimfull
↑「調光100%」の波形(イメージ)

外部サイトになりますが、こちらのブログや、こちらのYouTube動画も、ぜひ併せてご覧ください。調光をフルにしたときにも、純粋なサイン波ではなく、若干途切れて少し歪んだ電圧波形になっていることが分かります。

当ブログや ほかのサイト でも述べられているとおり、トライアック調光器は「ものすごい速さでオンオフする、そのオンオフの間隔を変えることで実質的な電圧を下げる方式」です。
よって、そのトライアック調光器が「完全な100%にならない」ということは、「わずかではあるが、オフになる瞬間がある」ということで、この時点で「なんか電子機器に悪そうな、“汚れた電源”になっているんだな」とわかると思います。(というか、そういう感覚は持っておいてください)

 

より詳しく言えば、Beamax(日本応用光学) が解説しているとおり、「誘導性の負荷」については一瞬の「オフ」時に異常な高電圧が発生し、これが調光素子と器具本体に悪影響を与えると言われています。
モーターが代表的な誘導性負荷ですが、電子機器のほとんどにはトランスなど何かしらの誘導性部分が含まれていますので、繋ぐべきではありません。(実際には「捨て球」と呼ばれる白熱電球を並列に接続したうえで、ミラーボールのモーター、ストロボ、星球用トランスなどを調光してしまうことはあり、経験則的にこれらは「捨て球入れたら大丈夫なもの」とされます。)

 

しかし、そうは言っても、スモークマシンやLED PARの電源をバトンに出ている調光回路から取れる方が絶対に便利ですよね。

そこで最近は調光ユニットが改良され、「ノンディム」あるいは「ゲート直」と呼ばれる機能が追加されるようになりました。これは簡単に言うと、「調光フル」よりもさらにオンオフの間隔を狭めてなるべく直回路に近づけた電気を出せるように調光器を改良し、調光回路を直回路の代用にできるようにしよう、というものです。

この機能について定めた規格、JATET-L-6180-1 「演出空間照明用サイリスタ調光器のノンディム機能規格」 を見てみましょう。4ページ目の「調査委員会の概要」だけで構いません。この機能が必要とされた経緯がよくわかると思います。そして、この「ゲート直」からさらに区別して、本来の意味の直回路は「純直回路」と呼ばれることもわかります。

 

以上が、調光回路に白熱電球以外を差してはいけない最大の理由です。

 

ではここで、「ノンディム機能にすればモーターやLEDがOKなんでしょ?じゃあ掃除機やスマホの充電器もOKじゃないの?」という人が居たとします。
そこで次の理由です。

 

理由2: 調光器は高い

確かに、掃除機は比較的単純なモーター負荷ですし、スマホの充電器は交流を直流にして電圧を下げているだけですから、LED PARより単純です。
しかし、だからと言って舞台の清掃のために調光回路に掃除機を接続し、その掃除機が故障してショートを起こし、調光素子をダメにしてしまったらどうでしょう。
調光素子は一度壊れると交換するしかなく、特に劇場の固定設備のような大型の調光ユニットでは、交換に時間がかかります。施工業者を呼ばなければならないかもしれません。
非常にお金がかかります。高いです。掃除機のために調光器を壊すリスクを負えますか、負えませんよね、というのが2つ目の理由です。

このほかに、“倫理的な”問題もあります。
照明さんは、自分のせいではないのに、調光回路を壊されて照明演出を妨げられることになるわけです。この「自分のせいではないのに」というのがポイントで、ミラーボールのモーターやLED灯体であれば、何かあってもその照明機材に責任があり、照明さんとしては納得がいきます。しかし照明演出の範囲外のことで調光回路を壊されてはたまりません。

このように「電気的には行けるけど、あんまりやってほしくないんだよなあ……」という状態を、私はよく「電気的には正しいが倫理的に危険な状態」と表現しています(笑)

 

さて、第3の理由は、その「電気的には正しいが…」のパターンです。

 

理由3: 照明電源から取ると、電圧がどうなっても知らないよ?

ここまでの議論は、調光素子を挟んだ調光回路を前提にしてきましたが、照明用回路でも「純直回路」を取れる場合があります。それは以下の2パターンです。

 

  1. ムービングライトやLEDなど純直電源が必要な機材が増えてから建設・改修された劇場の場合。
    ⇒この場合、バトンや床周りに純直回路が出ていることが多いです。Googleで「直回路 ホール」あたりで検索すれば、あなたの知っているホールにもあるかもしれません。
  2. 強電パッチ盤の残っている古い劇場の場合。
    ⇒この場合、強電パッチ盤の隣に「D/L切替スイッチ盤」が設置されています。DはDimmer(調光器)、LはLine(直電源)の意味で、これを「L」側に倒すと調光素子をバイパスし、その回路からは純直電源が得られます。
    新しい劇場で意図的にD/Lスイッチを導入している場合もありますが、稀なケースです。よって、古い劇場ほどムービングやLEDの持ち込みに適しているという謎の逆転現象が起こっています。
    IMG_0227
    ↑D/Lスイッチ盤(クリックで拡大すると、「DIM」「LINE」の文字が見えるはず)。長野県飯田市にて。

 

こうした劇場の場合、便利な位置から純直回路が得られるし、純直なら調光器を壊す心配もないので、その意味で電気的な問題はありません。じゃあ音響電源でも何でも取ってやるぜ!と行きたいところですが、ちょっと待ってください。まだ電気的・倫理的な問題が残っています。

照明は演出上の都合で、点灯する灯体の数や明るさ、つまり消費電力が変動し続けています。そして、消費電力が急激に上がった場合、系統全体の電圧が下がることがあります。(掃除機をオンにしたときに一瞬電灯がチラッと暗くなる、あれです)

つまり、純直回路だからと言って、照明主幹ブレーカーに所属している回路である以上、照明上の都合で電圧が不安定になっても文句は言えません。よって精密な機器の電源はなるべく舞台照明系統から遠い (つまり、電力会社の送電線にできるだけ近い上流で舞台照明と分岐している) 回路から取るべきです。やむを得ない場合は自己責任です。

 

理由4: 照明主幹より下流の電気は、照明のもの

これは完全に倫理的な問題です。理由2でも少し触れましたが、「事故が起こった時の責任」を考えるときに、「その回路は“誰の”回路か?」を考える必要があります。「責任」というと賠償とかの話かと思われがちですが、どの機材に責任があるか、という「原因追及」の話です。大元のブレーカーが落ちたとして、原因が照明機材なのか、掃除機なのか分からないのでは困りますから。
そう考えると、配線遮断器(ヒューズやブレーカー)は、「責任分界点」の意味もあるのです。このブレーカーより下流は俺のもんだぞ、と。
照明は特に大電力を消費する性質がありますから、たとえ純直回路で電気的な問題が無くても、“照明に所属している回路”にむやみに立ち入られたくないと考える気持ちは一応分かってください。

 

 

以上4つの理由が、「調光回路に変なものを差してはいけない理由」の主なものです。ご参考までに。

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この記事を書いた人

高校演劇~大学の学生劇団で照明を経験し、現在は会社員の傍らアマチュアで舞台照明を継続。第39回日本照明家協会賞舞台部門新人賞。非劇場空間の劇場化、舞台照明の歴史が得意。

コメント

コメント一覧 (3件)

  • SECRET: 0
    結局のところ、「サイリスタ方式の電源は、(機器の)力率改善コンデンサに多大な負担がかかるから 」が最適解かと。
    最新のムービングやLED機材等はほとんどユニバーサル電圧対応ですが、それでも調光回路から電源が取れないのはそういった理由があるから。(もちろん、この「力率改善コンデンサ」は掃除機にも入っています)
    ですので、「サイリスタ方式」をきちんと説明した方が、調光回路から電源を取ることによる機材トラブルの低減に繋がるかもしれませんね。

  • SECRET: 0
    コメントありがとうございます。良い補足コメントをいただきありがたい限りです。
    なるほど、誘導性負荷そのものへのダメージというより、誘導されて遅れた電流をできるだけ戻すための(機器内部の)進相コンデンサの方にダメージがかかるという説明が適切ということですね。
    その要素をうまく盛り込んだ解説ができればよいのですが…

  • オペラが好きで、舞台を見に行くので、《勉強》させていただいています。細かいところは、まだ、理解できませんが、繰り返し読んでいます。一応、超素人の読者もいる、とお伝えしておこうかな、とコメント差し上げました。これからもよろしくお願いいたします。

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