PARライト(パーライト)についての解説です。
「PAR」とは、「パラボラ状の(Parabolic)アルミ塗装の(Aluminized)反射鏡(Reflector)」の略で、本来は電球の形状を表す用語ですが、その電球を用いた灯体をPARライトと呼んでいます。
分類上は「灯体 > スポットライト > ミラーによる集光 > PARライト」となります。(詳しくは「光学系による灯体分類」の記事をご覧ください)
PARライト | |||
仕込み図の記号 |
電球と灯体の構造
上述した通り、PARとは本来、電球の形状を指す言葉です。
パラボラ状の(Parabolic)、アルミ塗装の(Aluminized)、反射鏡(Reflector)を用いて集光している電球を、PAR型電球と呼びます。PAR型電球には、フィラメントと反射鏡の他に、拡散ガラスが付いていて、この拡散ガラスの種類によって、照射範囲(ビーム角)が変わってきます。 (よく「レンズ」と言われますが、厳密にはレンズではなく拡散ガラスです。)
舞台照明で使われる拡散ガラスの種類は、
- VN (ベリーナロー=超狭い)
- N (ナロー=狭い)
- M (ミディアム=中くらい)
- W (ワイド=広い)
の4種類が主なものです。VN、N、M、Wの順番に、照射範囲(ビーム角)が広くなっていきます。
PARライトは、平凸レンズやフレネルレンズのスポットライトと違って、電球自体が集光機能を持つので、電球を収納する「灯体本体」は「ただの缶」です。このため、レンズスポットと違って照射範囲の広さを調節することはできません。照射範囲を変えたければ、電球を入れ替えるしかないのです。
PARライトの規格
レンズスポットの規格は、レンズの直径を取ってそのまま「6インチフレネル」などと呼びますが、PARライトは「PAR○○」(○○は「電球の直径(インチ)×8」の数字)という変わった呼び方をします。
電球の直径が8インチのPARライトは「PAR64」、
電球の直径が7インチのPARライトは「PAR56」
電球の直径が4.5インチのPARライトは「PAR36」という具合です。
他にも、PAR16、PAR20、PAR30、PAR38、PAR46という規格がありますが、舞台照明でよく使われるのは最初に紹介したPAR64、PAR56、PAR36の3種類です。某ネットショップではこれらが区別なく直径の小さい順に並べられていますが、「舞台用、一般用」という区別はかなり厳然と存在し、電球のワット数なども全く違います。
以下に、さまざまな規格のPARライトのワット数や使われ方を列挙しておきます。
【舞台用】
- PAR16 (2インチ)…200W程度の舞台用が存在し、灯入れ等に使われる。まだまだ珍しい。
- PAR36 (4.5インチ)…300W~500W。通称「ミニパー」。小劇場など。
- PAR56 (7インチ)…300W~500W。手頃な大きさだが、日本ではややマイナー。
- PAR64 (8インチ)…300W~1kW。小劇場から大劇場まで幅広く使われる。
※なお、「PAR36のM」はウシオ電機では「W」として扱われ、「PAR56、64のW」は日本ではほぼ見ない。
【一般用】
- PAR16、PAR20、PAR30…50W~75W程度のものが店舗装飾用などに使われる。
- PAR36…6V用や12V用のものが、バイクのヘッドライトや店舗装飾用に存在する。
- PAR38…いわゆる「ビーム電球」。40~150W。日常生活で最もよく見かけるPAR電球。
- PAR46…日本ではほとんど存在しない。
PARライトの呼び方
舞台用のPARライトは、上述した「拡散ガラスの種類」と「ワット数」を合わせた略称で呼ばれます。
「3VN」は「300Wのベリーナロー球」、「5M」は「500Wのミディアム球」、「1N」は「1kWのナロー球」、といった具合です。
灯体のアーム部分に、この略号を使って識別シールを貼っておくと便利です。なぜなら同じPAR64規格の電球でも300W~1kWまで幅広く、灯体の外見からワット数を判別できないからです。
光の特徴と使われ方
PARライトから出る光は、
- スモークを焚くと、光の筋(ビーム)が綺麗に見える
- サーチライトや自動車のハイビームのような、強烈に眩しい印象を与える
- 被照面が楕円形
- 被照面の輪郭はそれほどハッキリしていない
という特徴があります。このため、
- バックから光の筋を見せる
- SS
- ホリゾント幕への筋出し(ホリサーチ)
などの装飾的な目的で使われます。バック気味の単サスとして人や物に当てて使うこともあります。
また、
- 灯体がかなり軽量
- 平行光線が多く、遠い照射距離でも明るさが減衰しにくい
という特徴も持つことから、野外コンサートなどでは前明かりやその他基本的な明かりもPARで作ることがあります。
PARライトを使ってプランを組む際には、照射範囲を考えて適切な電球を選択することが重要です。また、上述した通り被照面が楕円形のため、「楕円の向きを縦にするか横にするか」も考えないといけません。
楕円の向きは電球を背中から持って回転させることで変えられます。灯体に対する縦・横を基準にする場合(灯体縦芯・灯体横芯)と、舞台に出る被照面の縦・横で決定する場合(舞台縦芯・舞台横芯)があります。
AC球とは?
PAR電球の種類として、VN、N、M、Wのほかに「AC」という種類を聞いたことがある方もいらっしゃるでしょう。
「AC」は、「Air Craft」の略で、飛行機の着陸時に点灯するライトを舞台用に改良したものです。VNよりも鋭いビームを出すため、もっぱらビームを綺麗に見せる目的で使われます。
しかし、ほとんどのAC球は100Vではなく、24V用か28V用の電球です。これは飛行機の着陸灯に起源を持つことと、耐電圧が低い方がフィラメントを細くできる(=よりビームが鋭くなる)ことが理由と思われます。
このため、AC球を使う場合には100V→24Vの変圧器を使うか、4灯を直列に繋いで(「シリーズ結線」と言います)、1灯当たり100÷4=25Vの電圧で使用するか、どちらかの対策が必要です。
PAR電球を使った他の灯体
「パーライト」以外にも、PAR電球を使った灯体が存在します。
- ミニブル
「ミニブルートライト」の略で、ほとんど裸に近いPAR電球(大抵はPAR36のワイド球)を複数個並べて、バンドアを付けた灯体です。もっぱらライブコンサートで「目つぶし」に使われます。2灯式(=別名「2モール」)から9灯式(=別名「9モール」)まで様々な規模がありますが、電球の数が違うだけで目的はほぼ同じです。
使ってみると、思いのほか照射範囲が広いことが分かります。PAR電球を裸で使うと、案外広く照らされるのです。
- レインライト
6V用や12V用の30W~50W程度のAC球を入れたPAR36灯体をこのように呼ぶことがあります。明るさは非常に暗いですが、この程度でもビームは綺麗に見えるので、数灯を並べてビームの数で魅せる目的で使われます。 これも典型的なレインライトです。
- スピナー
レインライトにモーターを付け、ぐるぐる回るようにしたものです。現在ではムービングライトに取って代わられましたが、かつてはディスコやライブコンサートで活躍したようです。
- スイングライト
スピナーと同じく、レインライトにモーターを付けたものです。チルト方向(首上げ・首下げ)の往復運動をします。これも現在ではムービングライトに活躍の場を奪われました。
↑0:10頃から出てくるのがスイングライト
リフレクター型PARライト
PARライトは便利ですが、電球に光学系を内蔵しているという性質上、どうしても電球の値段が高くなりがちです。
そこで、レンズスポットに入れるような普通のハロゲン球をPARライト化できるように、「反射鏡のみ」の製品が存在します。マイナーな存在ですが、覚えておいて損は無いでしょう。
LED PARはPARライトではない
LEDをめぐる技術の進歩により、最近は「LED PAR」と呼ばれるジャンルの灯体がかなり増えています。値段も1万円程度のアマチュア向けから数十万円のプロ向けまで様々です。
しかし、「LED PAR」は「PARライトに似せた形のLED灯体全般」を指す用語であって、決して「PARライトの一種」ではありません。
この記事で述べたような電球の性質などを考えれば、PARライトと同じ光学系をLEDで実現するのは非常に困難だろうと想像できると思います。
別物ですから、「LED PAR」の導入によりPARライトを淘汰できることはありませんし、逆もまた然りです。
LED PARに罪はありません。当ブログでもLED灯体の積極的な機材レビューを行っています。しかし、あくまで別ジャンルの灯体と認識し、それぞれの適所を見つけていきたいものです。
LED PARとPARライトを無闇に比較するような行為はやめましょう。
コメント