こちらの記事で舞台照明における裏技的な使い方を紹介したダクトレール。このダクトレール、通常は天井に直接固定されているか、ボルトやパイプで空中に固定されています。ところが、劇場のサスバトンよろしく昇降する仕様になっている、ダクトレールの亜種が存在するのです。
オートリフターとスポットベース
早速ですが、実例を見ていただきましょう。
(画像はクリックで大きくなります)
この写真は、2014年に奈良県の某大学の演劇部を訪問した際、許可を得て撮影した写真です。一般教養の科目が行われる大講義室の一種だと思います。彼らはここで演劇の公演をしていたんですね。
灯体の付け根をクローズアップすると確かにダクトレール用のプラグ が付いていて、灯体自体もPanasonicのダクトレール用スポットライトですね。
しかし、少し様子が違います。なんだか天井付近が枠に嵌っているような構造をしていて、このまま降りてきそうじゃないですか?
その通り、これはスポットライトごと昇降することができる「オートリフター」という設備なのです。
詳しくは Panasonic / YBX06920 の説明書を読んでみてほしいのですが、要するに、下図のようになるのです。
まるでサスバトンのような設備ですね。と言っても、サスバトンよりも昇降速度はかなり遅いですが。
そして、もう1つ注目したいのが、ダクトレールの形状。
なんだか、丸いお皿のようになっていて、「レール」っぽくない見た目をしています。
何と、これは「スポットベース」(型番:DH0214) と言って、1台分しか吊れないダクトレールなのです。
この「オートリフターとスポットベース」の組み合わせで全国様々な場所で納入されていたようで、大講義室、宴会場、体育館、吹き抜けのエントランスの天井、などで見ることができます。
▲吹き抜け天井に設置されたオートリフター+スポットベース (京都工芸繊維大学構内)
ちなみに、1個分のスペースしかないので、下の写真のようなプラグ部分の大きい灯具は使えません。
活用案
さて、このような設備に遭遇し、好きに使っていいよと言われた場合、どのように舞台照明に活用すればよいでしょうか。
片切スイッチの二次側を奪って、もともとのスポットライトを調光してしまうという荒技もあるでしょうが、このような設備は往々にして、AC100Vをそのままオンオフするのではなく、「フル2線式リモコン」という弱電の信号線を使ったスイッチになっていることが多いです。
大学や会社のオフィスなどで下図のようなスイッチを見たことがあるでしょうか。これが「フル2線リモコン」です。
こうなると、設備側に改造を加えることは困難です。「あるがまま」使うしかないでしょう。
記憶がおぼろげですが、上で紹介した某大学の講堂も、確かこのフル2線式リモコンでオンオフしかできない状態だったと思います。
オンオフしかできない (調光ができない) ので、ほとんど舞台照明としては活用されておらず、演劇部の公演の際は別で投光器とフットライトを持ち込んで使用し、ごくまれに単サスの用途で常設の吊りスポットを使っているとのことでした。
非常にもったいない使い方ですね。
もし灯体の吊り下ろしやシュートの原状復帰などが完璧にできる前提であれば、ダクトレールに吊るけど電源は取らないの記事で紹介したような方法で、自前の灯体を持ち込むのはどうでしょうか。
こんな感じで、スポットベースの1つ1つに灯体や調光ユニットを吊っていけば、吊れる台数に限りはありますが、それなりに本格的な舞台照明を作ることができるのではないでしょうか。
この場合スポットベースは直回路なので、調光ユニットやLED PARの電源はスポットベース自身から取ります。PARライトなど調光器の必要な灯体は、空中にケーブルを這わせ、調光ユニットから電源を取るようにすればよいでしょう。
注意点
ここまで紹介したのはあくまで「理論上こういうことができます」という紹介です。かなり稀なパターンだとは思いますが、本当に上記のようなオートリフター設備を舞台照明に活用する場合は、以下の点に注意してください。
- 設備管理者の了解をよく取り、原状復帰を心がけましょう。普段は点灯していなくて放置されているような設備ならまだしも、大学の講義室で普段は演台当てのスポットライトになっている場合など、シュートまで正しく直さなければ迷惑がかかります。
- 高天井設備が多いので、万が一にも灯体が落下しないよう、ちゃんとしたダクトレールプラグを使いましょう。GONGさんのものが比較的「ちゃんとしている」のではないでしょうか。
- オートリフターに落下防止ワイヤーを掛けるアイボルトが付いていることも多いです。必ず使用しましょう。
- ダクトレール用灯体全般、シュートに竿を使うことはできません。これはPanasonicのダクトレール用灯体の説明書にも書いてあります。ダクトプラグの根元は機械的には弱いので、シュート棒で強く引っ張ったりすると折れて落下する危険性があるためと思われます。
- ダクトレール用プラグには正しい向きがあります。一見左右対称ですが、左右対称ではありません。反対向きに取り付けると、プラグの破損を引き起こすので慎重に行いましょう。
東京に来たら意外とダクトレールのある会場が多かったので言いますが、【ダクトレールへの灯体取り付けには向きがあります】。
写真1枚目は正しい向き、2・3枚目は間違いです。
反対に取り付けようとすると明らかに固いのですが、“ありそうな固さ”のため、無理矢理付けてしまう例が多いようです。 pic.twitter.com/ysm5rG5rJE
窶? 照明機材の盛り合わせ (@lightingkizai) December 15, 2019
……ここまでしてこんな特殊な設備を活用する意味もないのかもしれませんが、現にそういう環境でどうにか演劇公演をしている人たちがいる以上は、多少なりとも活用策を考えてみるのもいいんじゃないかと思います。
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