前々回、前回の記事に続いて、今度はチェイス機能の使い方を見ていきます。ここまで読めば、一般的な照明卓にある機能は網羅できているはずです。また、世の中の卓ではなかなかできない、キューシート内にチェイスを入れ込む方法も紹介します。
DoctorMXのチェイス
DoctorMXのチェイス自体は、「チェイサー」というそのままの名前の機能を使います。
まずは流れ図に余計なものを挟まず、純粋にチェイサーとしての機能を一通り試してみることをお勧めします。
- チェイスのステップは、コンソール機能のフェーダーを掴んでドラッグ&ドロップする、監視機能を掴んでドラッグ&ドロップする、等の方法で作成します。前回の記事でコンソールの使い方を理解していれば、すぐ分かると思います。
- 速さはHz (ヘルツ) 表記です。ヘルツとは1秒間に事が何回起こるかを示す単位で、数字が大きいほど速いチェイスになります。この場合 [ステップ/秒] と言い換えても良いでしょう。つまり、2Hzに設定すれば1秒間に2ステップ進みますし、0.5Hzにすれば1秒間に0.5ステップ、つまり2秒間に1ステップ進むことになります。
- 「滑動」は、0にすればフェードチェンジ無しでパッパッと切り替わるチェイスになります。100にした場合はずっとフェードでぬるぬると変化し続けます。中間の50にした場合、たとえば1Hzのチェイスなら半分の0.5秒をフェードに費やし、残りの0.5秒は静止します。
というか、こういうのは公式マニュアルが一番正確ですね。他の機能については公式をご覧ください。
チェイスミックスモード
さて、DoctorMXのチェイスには「チェイスミックスモード」というモードが存在します。
これをオンにしておくと、各チェイスをフェーダーで再生できるようになります。(普通の調光卓で言うサブマスターの状態)
試しに物理卓をつなぐか、チェイスのすぐ上にシンプルなコンソールを配置してフェーダーを動かしてみましょう。
上図の場合、コンソールのフェーダー1~3を使って、チェイス1~3の明るさを制御できていると思います。当然この状態でコンソールにシーンを作れば、キュースタックの中にチェイスを入れ込むことが可能になります。これができる調光卓は少ない (大抵はチェイス機能だけ独立しているか、サブマスターにしか入らない) ので、けっこう貴重な使い方です。
しかし、この方法には問題があります。
それは、チェイスミックスモードで使用する始まりのチャンネル番号が常に「1」で固定ということです。
特別な事情がなければチャンネルは1番から使用するものであり、公演規模にもよりますが、1~100chは既に埋まっているということも当然考えられます。かと言って、チェイスのためにコンソールのch1~50を空けておいて、51番から使用する、などというのも変な話です。(特にDoctorMXでは、コンソールのチャンネルは後ろの方に行くほどスクロールが長くなり触りづらいので、通常使う明かりはなるべく前の方に寄せておきたいです)
これはひょっとすると、開発サイドに事情を説明すればすぐに対応してくれるかもしれませんが、今のところ仕様なので仕方ありません。
ではどうするか。
流れ図を分岐して統合する
流れ図を分岐する、という方法が考えられます。
少しややこしいので、順を追って説明しましょう。
まず、コンソール上でチェイスミックスに使用したいチャンネルを心の中で決めます。ここでは51番~60番をチェイスに使用すると決めました。決めたのでフェーダーの名前欄に書いてしまいましょう。
次に、流れ図を2列に増やします。(流れ図の「編集」→「ラインを作成」)
コンソールを右側に残し、チェイサーは左側の列に移動します。
続いて、「OSC」を4個と「パッチ」を1個追加し、下図のように配置します。
4つのOSCについては、以下のように設定してください。(クリックで大きくなります)
OSCアドレスはこの名前でなくても任意の名前で良いですが、必ず#1(送信)―#2(受信)、#3(送信)―#4(受信) で同じアドレス名でペアになるようにしてください。
そして、チェイスの直前に追加したパッチは、一旦「すべて外す」をしてから、先ほど決めた「コンソール上でチェイスミックスに使用したいチャンネル」を1始まりに直すようにパッチしていきます。
ここでは、先ほど決めた51番~60番を、1番~10番にパッチしています。
これで完成です。
この状態で、コンソールの51番のフェーダーを上げてみてください。すると、チェイスの1番が再生されるはずです。
この状態であれば、何の問題もなくコンソールでチェイスを操作することができますね。当初の目的が達成されました。早速、コンソールのシーン (キュースタック) にチェイスを入れ込んで使ってみましょう。
※当然、フェーダー51~60番はチェイス発生器としてのみ使用し、実際の明かりのチャンネルとして51~60を使わないようにする必要があります。もし実明かりが100chある場合、余裕を見てチェイスは151~にするなど、状況に応じて変更してください。
OSCは流れ図の分岐に使える
さて、いきなり「OSC」なる謎の機能が出てきて意味不明だったと思いますが、この機能が「流れ図の分岐」の役割を果たしています。
OSC (Open Sound Control) は元々音楽系を発祥とする通信プロトコルで、メディアアートの文脈では異信号間の橋渡しとして使われることの多い信号ですが、これをDoctorMX内部で完結する使い方をすると、流れ図の分岐や合流に使えます。
コンソールのある “メインの流れ図” から分岐してサブの流れ図に信号を流し、そちらでチェイスを発生させ、またメインの流れ図に戻す。音響ミキサーで言うセンド&リターンを実現しているわけです。
チェイスミックスモードがCh.1始まりでないと使えないという制約に対し、メインの流れ図上で「51~60→1~10」のパッチを実施してしまうと、当然本来の1~10番に入っていた明かりに支障を来たします。そこでメインの流れ図を邪魔しないサブの流れ図に移し、そちらで「51~60→1~10」のパッチを実施しているわけですね。
慣れるまで少しややこしいですが、一度慣れてしまえば、さらにほかの機能と組み合わせても混乱しなくなると思います。
私はだいたい、他にも機能を色々追加して流れ図全体としては下の図くらいにはなっていることが多いです。
また、流れ図の分岐機能を活かし、出口を2系統にすることも可能です。
まとめ
ここまで3回にわたり、私流のDoctorMX使用方法を解説してきました。比較的、本来の設計思想に沿った方法で、かつ調光卓らしい使い方をしている方だと思います。
皆さんもぜひ、自己流のDoctorMX使用方法を教えてください。TwitterのDMなど開放しておりますので……
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