※照明ケーススタディは、筆者がこれまでに担当した照明プラン・オペレートの中から、一般化できる知見を紹介するシリーズです。
なるべく汎用性のある知見を紹介していくつもりですが、他の記事群に比べると「個」が強く出ることをご理解ください。
※写真は低圧ナトリウムランプを使った別の公演のもの。
左奥の歯車の部分が、単サスで抜かれている。
【公演データ】
本番時期:2012年5月
公演名:演劇ユニット遊走子『ゆめみたものは』
会場:京都大学吉田寮食堂(耐震補修前)
筆者の立場:照明オペレーター
【記事テーマについて】
低圧ナトリウムランプという光源があります。ひと昔前のトンネルによく設備されていた、オレンジ色の光を出す光源です。
これを演劇で使うと面白い効果が出せるのです。
低圧ナトリウムランプは、波長で言うと590nm付近の、人間が「あのオレンジ色」に感じる光しか出していません。
結果として同じオレンジ色に見えても、他の波長が含まれているかどうかで、全然見え方が違います。
光源の「演色性」と言って、ある光源で照らした時に物体本来の色をどれくらい再現できるか、という尺度があります。
白熱電球や太陽の光は、紫外線から赤外線まで広い範囲の波長をおおむね均等に出しているので、演色性は「100」です。
私たちが日常使う蛍光灯などは、演色性80~85程度です。その程度あれば、日常生活で違和感を覚えることはありません。
美術館など、色をきちんと見せることが重視される環境では、95程度の光源が使われます。
で、低圧ナトリウムランプはその演色性が大抵「―」と表示されます。
つまり、あまりに演色性が悪いので、もはや演色性などと言う尺度の対象外であるということです。
実際に、低圧ナトリウムランプで照らされた物体は、ほとんど灰色になって全く色が分かりません。
そして、低圧ナトリウムランプで全体を照らしている状態から、特定の部分だけ単サスで「抜く」と、その部分だけ色が復活します。
これが非常に美しいのです。特にカラフルな舞台美術・衣装の場合は、そこだけ別世界のように思えます。
この公演『ゆめみたものは』では、終盤に低圧ナトリウムランプで灰色になった世界の中で、メインの登場人物2人がサスで抜かれるシーンがあり、何とも言えない「懐かしさ」「ノスタルジー」「セピア色感」を出すことができました。
灯体としては、この写真のようなものです。以前は工事現場用機材のレンタル会社が所有していたようで、舞台照明機材のようなアームが付いているので便利です。
中に安定器が入っているので非常に重いです。
注意点としては、水銀灯と同じように放電開始から3~5分かけて安定していくので、最終的な色味・明るさに到達するまでに時間がかかるということです。
また、当然調光もできません。
なので、脚本の進行から「ここからONにすると、良い感じのシーンで完全安定する」というポイントを見つけて、そのタイミングでONにする必要があります。
さらに、作業用の投光器なので非常に広範囲に広がります。これはブラックラップである程度抑制できますが。
ちなみに、この公演の主演だった小西という男は、4年間で3回ナトリウムランプに照らされています(笑)
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