※照明ケーススタディは、筆者がこれまでに担当した照明プラン・オペレートの中から、一般化できる知見を紹介するシリーズです。
なるべく汎用性のある知見を紹介していくつもりですが、他の記事群に比べると「個」が強く出ることをご理解ください。
【公演データ】
本番時期:2012年5月
公演名:ムーンライトキャバレー(音楽イベント)
会場:京都大学吉田寮食堂(耐震補修前)
筆者の立場:照明プランナー(大学通算3回目)兼オペレーター
仕込み図:
その他の書類:パッチ表
【記事テーマについて】
「アドリブ照明に強くなりたい」って、常々思っています。
特に私は演劇畑の人間なので、基本的には演目の進行に合わせてあらかじめ考えておいた「きっかけ(キュー)」をこなしていくというのが本番の仕事で、ライブハウス的なアドリブの挟まる余地はありません。
そのような状況で、大学2回生の春にこのイベントの照明を担当したのは良い機会だったと思います。
準備期間は短く、リハは本番前の1時間程度で、楽器同士の合わせが中心で照明の打ち合わせはほぼ無しでした。
この現場から得られた一般論は、
「アドリブ照明は、自分が全てのチャンネルの明かりの効果を把握できる程度のチャンネル数から始めるとよい」
ということです。
すなわち、調光卓の1本1本のチャンネルについて、
- この明かり単独で点けた時の印象はどうか(明るさに応じて2~3種類)
- 他の明かりと組み合わせて作れる印象的なシーンはあるか(3~4種類)
を考えて、なんとなくふんわりと脳みその引き出しに入れておけば、突然知らない曲の演奏が始まっても、曲調や歌詞などからイメージを組み立てて、曲の進行にそれほど遅れずに「付いていく照明」が可能になります。
それができる程度のチャンネル数から始めようぜ、ということです。
私の場合は、脳みそのキャパシティーを超えないチャンネル数は「15ch」でした。
調光卓はシーンセッターで、下段をシーンモードで使いましたが、左側3シーンはチャンネル単独でシーン登録することで実質的にチャンネル化して、上段12chと合わせて15chというわけです。
残りの9本のシーンフェーダーには、よく使いそうなチェイスを入れておきました。
もちろん、「アドリブ対応可能なチャンネル数」は人によって、また経験に応じて変わってくると思います。
私も、この2年後くらいに、慣れない公共ホールの現場でどうしても打ち込みが間に合わず、演目の一部で80ch程度の卓をアドリブ操作して乗り切ってしまったことがあります。
でも、初めてアドリブに挑戦するときは、やはり15ch程度までが良いのではないでしょうか。そう考えると、ディムパックTZ-15の設計はある意味理にかなっているのかもしれませんね。
【その他の感想・知見】
- 初めて聞いた曲の展開を予想して、「サビに入りそうなところ」でサビっぽい照明にうまく切替えられた時、とても気持ちが良かったです。
- ムーンライトキャバレーということで、エリスポを使ってわざとらしい黄色(#43)の月を出してみましたが、あまり使いどころはありませんでした。
- PAR64は悪名高いシルバニアの120V球で、色温度がとても低くなってしまいましたが、吉田寮食堂の古さによく合っていて、かえって普通のパーライトより良かったかもしれません。
- シーリングは仕込んだけど眩しいと評判が悪く、実際にはフロントのWと#FR-4で顔を明るくしていました。小劇場演劇の人は何でもシーリングを仕込まなきゃいけないと思っている節がありますが、ジャンルが違えば照明のやり方も違うものですね。
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