あなたは、ある演劇公演の照明プランナーになりました。
しかし、初めてなので何から手を付けてよいかわかりません。
そんな時、まずは「公演会場の正確な把握」から始めましょう。
※筆者が演劇界隈の人間のため演劇公演としていますが、なるべく演劇以外の公演にも適用できるように書きます。
公演会場になりうる場所
公演会場と一口に言っても、市民会館だったり、小劇場、野外、教室等、あらゆる場所が公演会場になりうると思います。
これらの公演会場を、4種類に分けてみます。
(A)仮設の現場…ふだん劇場でない場所のこと。「仕込んでいない状態では、舞台照明は何もない」のが特徴。
(A-1) 教室などの小空間 |
(A-2) 野外、廃工場などの大空間 |
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(B)常設の劇場…劇場として作られた建物。「仕込む前から、舞台照明設備がある」
分けてはみましたが、照明さんがやることは「基本的に同じ」です。設備についても、それが常設か仮設かの違いだけ。
それぞれの会場に合わせて準備するものや現場での作業手順が異なりますが、それはもっと先の話ですので、まずは気にせず行きましょう。
図面の入手
舞台照明の仕事は、単に本番で照明卓(コントローラ)の操作をするだけでなく、「どこに、どのような灯体を、何台設置するか」から考える必要があります。
仕込み時間等の制約で「ありもの」を使うしかない場合や、演劇の大会などで「他人が考えた灯体配置」で照明をする場合もありますが、基本はすべてゼロから考えるものだ、という意識は忘れずに行きましょう。
さて、「どこに、どのような灯体を、何台設置するか」を考えるためには、図面が必要です。
必要な図面は、以下の通りです。
- 平面図
- 断面図
- 照明の「基本仕込図」
- バトン図
それぞれ以下に解説します。
【平面図】
平面図は、劇場を上から見た図面です。
プロセニアム型ホール (分類:B-2) の場合、平面図にはバトン類 (サスバトンや美術バトン)、幕類 (緞帳・袖幕・大黒幕・ホリゾント幕等) の位置が記載されています。[サンプル]
小劇場 (分類:B-1) の場合、劇場空間そのものの外形と寸法が記載してあります。[サンプル]
舞台美術 (セット、大道具) については平面図上に記入されるため、照明目線では、舞台装置と灯体の位置関係を把握するために重要です。
【断面図】
断面図は、劇場を横から見た図面です。
なぜか軽視されがちですが、必須です。特に重要なのは高さ方向 (タッパ) の寸法。
たとえば地明かりに何台のスポットライトを使えばよいか分からないといった場合、地面からバトンまでの高さが分からないと解決できません。
逆に、断面図が無くてもバトンタッパさえ分かれば最悪何とかなります。
[プロセニアム型ホール 断面図サンプル]
[小劇場 断面図サンプル]
【照明の基本仕込図】
プロセニアム型ホールの場合、公演が無い日でもサスバトンに何らかの灯体が吊られています。灯体はコンセントに刺さっていて、講演会などの簡単な催し物ですぐに使えるようになっています。 これを「基本仕込み」と言います。公演終了後には、基本仕込みに戻すまでが利用者側の責任となります。
こうした劇場では基本仕込みをベースに照明を組み立てると仕込み・バラシの効率化が図れます。よって基本仕込図も入手しましょう。
[基本仕込図 サンプル]
一方、小劇場においては毎回バトンを空っぽにする「全バラシ」が主流です。灯体の保管のためにバトンに吊っておくことはありますが、コンセントには接続せず、ただ吊っておくだけです (捨て吊り)。そのような劇場では、基本仕込図は存在しません。
【バトン図】
照明仕込み図を描くためのベースになる図面です。プロセニアム型ホールの場合、「基本仕込図」同様に簡略化した図面を使用するため、バトン図はありません。
一方、小劇場の場合は建物の形やバトン配置がいびつな場合が多いため、平面図上にバトン位置を線で示した「バトン図」が別途用意されています。その場合は、「バトン図」に重ねる形で灯体記号を配置していきます。
[小劇場のバトン図 サンプル]
なお、これらの図面はウェブサイトに載せていない会場が多いため、自分で会場に問い合わせて供給してもらう必要があります。
図面が無い場合
そもそも劇場・ホールではない空間の場合、ふつうは図面がありません。劇場でも、平面図のみ供給されて断面図が無い場合もあります。
そのような場合、実際に会場を見学して簡単に測量を行うことをおすすめします。
会場の都合等であまり見学時間が取れない場合、最低限、「空間を直方体に見立てた際の縦・横・高さ」だけ測量すれば、最悪何とかなります。
高さ方向の測量はメジャーではやりづらいため、ロープやスズランテープを用意すると良いです。バトンにロープの一端を括り付け、床まで垂らし、床に接する部分に目印を付けて持ち帰ります。こうすれば、持ち帰ったあとにゆっくり長さを測れます。
また、予算があればレーザー距離計を持っておくと良いでしょう。1万円程度の安価なもので構いません。
↑非劇場空間での測量メモと、完成した平面図 (クリックで拡大)
↑測量結果を元に照明シミュレーションをしている様子 (Capture)
↑会場の実写画像
照明機材リストの入手
図面とは別に、照明機材リストも入手しましょう。
サスバトン基本仕込みがあるホールの場合、基本仕込みに含まれていない灯体については機材リストに載っています。
非劇場空間の公演の場合、照明機材はほとんど持ち込みになるため会場の機材リストは存在しませんが、代わりに筆者作成の「照明設備チェックシート」を埋めてみてください。脚立の有無など細かい項目が多いですが、地味~に後から役立ちます。
まとめ
本記事では、公演に関わることになった照明プランナーの仕事の第一歩として、会場環境の把握を説明しました。
従来の照明関係の文献では、プロセニアム型ホールを前提とした記述が多いため、あえて小劇場や非劇場空間も意識した表現にしました。
まだ全く照明プランを立てたことのない場合、今は何のために行うのか理解できないかもしれませんが、いずれ意義は分かります。
まずは「公演会場に慣れ親しむ」意味でも、会場環境を把握してみてください。
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