アマチュア/ローエンド舞台照明界の歴史上、最大の謎と言っても過言ではない、この問題。
- シーンセッターは、なぜ複数のブランド (American DJ, Elation, Chauvet, STAGE EVOLUTION など) から同じものが販売されているのか?
- その「共通の源流」は存在するのか?存在するとしたら、どこなのか?
――今回は、筆者なりの仮説を提唱したいと思います。
シーンセッターとは?
SCENE SETTER (シーンセッター) とは、American DJ、Chauvet、Showtec など複数のブランドから販売されている 24ch または 48ch の舞台照明卓であり、シンプルな機能性と安価な価格帯から、アマチュア・学生団体における照明卓の定番になっている機種の一つです。

日本ではサウンドハウスが取り扱っており、2~3万円の価格帯で演劇1演目分のサブマスター記憶 (96本または192本) ができ、それぞれのサブマスターは単独シーンにもチェイスにも使えるというコストパフォーマンスの良さは、ディムパックなどの古典的なシステムを苦労しながら使っていたアマチュアにとって、DMX卓のハードルを一気に下げる画期的な出来事でした。
シーンセッターをめぐる疑問
シーンセッターのレビュー記事にも書きましたが、この卓はいろいろなメーカー・ブランドからほぼ同じ卓が発売されています。ざっと以下のようなバリエーションがあります。
- American DJ / SCENE SETTER (初期・旧ロゴ) … 初期 (2000年代初頭?) にAmerican DJブランドで売られていた。パッチができない。
- Elation / SCENE SETTER … おそらく上記ADJ版より少し遅れて発売。遅くとも2007年には存在した。パッチができる。Elationは元々、ADJの上級ブランドとして始まった経緯があるので、パッチの有無で差別化していた?
- STAGE EVOLUTION / SCENE SETTER … サウンドハウスのプライベートブランド「STAGE EVOLUTION」名義で販売された日本向け。パッチができない。
- Showtec Showmaster 24 … ヨーロッパで主に販売された。おそらくElation版と同じ。
- American DJ / SCENE SETTER (新) … 2020年代に入ってから? ADJ / Elationのブランド再編の過程でADJ名義に統一されたバージョン。USBメモリーへの保存に対応している。
- Chauvet / Stage Designer 50 … 24chと同じ面積ながら、ページ切り替えで48chに対応、さらに2chおまけチャンネル (AUX) が回転ツマミで付いているバージョン。純粋なアップグレード版かと思いきや、パッチはできない。
- STAGE EVOLUTION / SCENE SETTER NEO … 上記Chauvetの日本向けサウンドハウス版。
……本当にいろいろなブランドから販売されていて、発売から20年以上が経過し「ロングセラー」になってきていることが分かりますね。
そうなると、照明の歴史に興味がある人ならば、次のような疑問が浮かんでくるでしょう。
- なぜ複数のメーカー/ブランドから同じ卓が販売されているのか?
- その「共通の源流」は存在するのか?存在するとしたら、どこなのか?
……この疑問は、明確に文献などを辿って確定的な答えを得るのはきわめて難しいです。この卓を販売しているのはいずれもローエンド~ミドルエンドの照明機材メーカーであり、社史や昔のカタログが体系的に整理されていることが少ないためです。
しかし、「おそらくこうではないか?」という筆者なりの考察をしてみたいと思います。
仮説1: 中国系メーカーによる「ホワイトレーベル」品
「なぜ複数のメーカー/ブランドから同じ卓が販売されているのか?」に対する直接的な答えとしては、「製造自体は中国系 (深圳など) の工場がノーブランドで実施しているから」ということで良いと思います。ODM (Original Design Manufacturing) としての製造で、元のメーカー名は伏せて「ホワイトレーベル」として複数の機材メーカー・機材ショップに卸されたと考えれば合理性があります。
ちなみに、シーンセッターの裏型番として「DC-1224 (24ch)」「DC-2448 (48ch)」という名称もあります。フランスのBOTEX社は「SCENE SETTER DC-1224」と、盤面に併記した状態で販売していました。また、MIDI SysExを用いたバックアップデータをよく見ると、冒頭に十六進数で [44, 43, 31, 32, 32, 34] = ASCIIで [D, C, 1, 2, 2, 4] と読めるデータが埋め込まれています。

仮説2: 大手メーカーの設計をコピーしている
SCENE SETTER について、確認できる最古の取扱説明書 (Rev 1.1) は、2000年11月の American DJ 版です。

つまり、設計自体は1990年代後半に行われたと考えられます。この時代は grandMA (初代) がようやく登場した時期であり、中国系のODM工場が独自の調光卓設計ノウハウを持っていたとは考え難いです。
すると、
- 大手メーカーが1990年代以前に作った卓の中に「元ネタ」があり、それを中国工場がリバースエンジニアリングし、廉価版として再設計した
- それを American DJ が買い取り、SCENE SETTER という名前を付けて販売した
- ホワイトレーベルなので、同時期に American DJ 以外の会社も同じものを仕入れてそれぞれ自社ロゴを付けて販売した
と考えるのが自然でしょう。中国・深圳界隈の「山寨」と呼ばれるパチモン文化を考えても、この説は合理性がありそうです。
仮説3: 2つの元ネタ
そうなると、シーンセッターの「元ネタ」の卓はどれになるのでしょうか?ここからは盤面のレイアウトを頼りに探していくしかありませんが、おそらくこれだろう、という卓を2つ紹介します。
元ネタ1: Theatrelight / Scenemaster 24/48
元ネタの1つ目は、ニュージーランドの Theatrelight 社が製造・販売している「Scenemaster」シリーズです。社史によれば、同社は1994年から中国での製造を開始しており、中国ローカル企業に設計を真似されるのが早かったとも考えられます。

元ネタ2: NSI / MC 7000シリーズ
もう一つの元ネタは、アメリカNSI社が過去に製造・販売していた「MC 7000」シリーズ (MC 7008 / MC 7016) です。TAP SYNC と BLACKOUT ボタンはこの卓からコピーされていると考えられます。
根拠として、シーンセッターとよく似た STAGE SETTER-8 (ステージセッター) という卓が American DJ から併売されていますが、このステージセッターは MC 7008 のほぼ丸ごとコピーなのです。よって、ステージセッターに採用した機能の一部を、シーンセッターにも横展開した、と考えて良いと思います。

NSI社は、Live Design Online の記事によれば、1986年の創業当時、音楽パフォーマーが舞台上で足を使って操作できる照明コントローラーを作っていたようです。この点で、American DJのターゲット市場と近いものがあるでしょう。
ステージセッターの紹介記事で「シーンセッターの機能限定版」という言い方をしましたが、実はこの2つの卓は全く異なる源流の卓 (ニュージーランドとアメリカ) であった可能性があります。
もう1つの元ネタ: サウンドアクティブ
シーンセッターの盤面右端には、音に反応してチェイスステップを進める「サウンドエフェクト」モード用のフェーダーが搭載されています。
この部分は直接的に元ネタの卓があるというわけではないと思いますが、そもそも American DJ は創業者インタビューでも語られているように、モバイルDJ向けの音響機材ショップがルーツです。音に合わせて照明がわちゃわちゃ変わってくれるというサウンドアクティブ機能が付いているのは、創業の経緯からして自然なことではないでしょうか。
まとめ
すべての仮説が正しければ、「シーンセッターの元ネタは、ニュージーランドとアメリカから来た2種類の卓である」という、意外な?結論が導き出されます。
単なる元ネタのコピーに留まらず、深圳電子部品界隈の「山寨文化」らしい、独自の機能追加やアレンジが加えられ、元ネタよりも便利にしようとした形跡が感じられます。
しかし、この「山寨文化」には、手放しで喜べない闇の側面があります。
この文化の延長線上に、現在進行形でプロの舞台照明業界を悩ませている、高級卓のクローン (違法コピー品) があることを忘れてはいけません。
仮に本記事の仮説が正しく、シーンセッターが Theatrelight や NSI のコピーだったとして、1990年代当時はハードウェアの中に高度な独自OSやソフトウェア・ライセンスが含まれておらず、ワンチップICに書き込まれた単純なファームウェアで動いていたため、単に盤面デザインや機能性が似ているという程度では、メーカー側が海外の工場を訴えて差し止めることが非常に難しいグレーゾーンでした。
結果として、これが「安価なエントリー機材の普及」という形でアマチュア舞台照明やDJライティングの底上げ・大衆化に寄与した側面があります。この点に関しては、当ブログの主な読者層がアマチュア舞台照明スタッフであることから、筆者はある程度肯定的にとらえています。
しかし、そこで培われたクローン製造のノウハウや「真似して安く作れば売れる」という成功体験が、2010年代以降、grandMA2やAvolitesといったプロフェッショナル向け高級照明卓のソフトウェアを不正にクラックした「違法コピー卓」の氾濫へとつながっていった可能性が非常に高いとも思います。オリジナルを開発したメーカーの知的財産 (IP) を脅かすクローン問題は、現代の舞台照明界が抱える最も暗い病理の一つです。
「偉大なるチープ・スタンダード」か、あるいは「現代に続く病的なコピー文化の原点」か。
今も多くの小劇場やライブハウスで現役として動いているシーンセッターですが、そこに記憶された照明シーンを繰り出して舞台を照らすとき、私たちはこの名機がもたらした「圧倒的な普及」という恩恵と、業界が今なお支払い続けている「知的財産の侵害」という代償の、両方の重みを忘れてはならないと思います。
筆者は、MAやAvolitesの「コピー卓」についてはソフトウェアライセンスの観点で明らかに違法であり、本番用・打ち込み用を問わず使用するべきではないという立場を明確にしておきます。
出典
- 最初期シーンセッターの取扱説明書 … Full Compass Systems (2000) https://www.fullcompass.com/common/files/23397-ADJSceneSetter48UsersManual.pdf?srsltid=AfmBOop8CWN9A5d6Jd7cvUIBgnErSu1ghGAnKTvdbMjOWDUrebKncq5D (2026/6/28 閲覧)
- Elation シーンセッターでパッチができるとしている書き込み … Pro Sound Web (2007)https://forums.prosoundweb.com/index.php?topic=90620.0 (2026/6/28 閲覧)
- NSI社の歴史 … Live Design Online (1998) “Meeting of minds: NSI and Colortran pool philosophies in its corporate merger” https://www.livedesignonline.com/meeting-minds-nsi-and-colortran-pool-philosophies-its-corporate-merger (2026/6/28 閲覧)
- American DJ 創業者インタビュー … NAMM (2019) “Oral History Interviews” https://www.namm.org/library/oral-history/chuck-davies (2026/6/28閲覧)
謝辞
- 脇路ソレルさん (X @Tomoaky88) … シーンセッターの盤面デザインの大半が Theatrelight Scenemaster であることをご指摘いただきました。
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