Amazonやサウンドハウスで照明機材を探していると、必ずと言っていいほど目にする卓があります。
「DMX-192」 や 「DMX-384」 といった名前で数千円〜1万円程度で売られているノーブランド品や、本家であるAmerican DJ (ADJ) や Elation の 「DMX Operator」 シリーズです。

フェーダーがズラリと並んでいて、いかにも「照明卓」らしい見た目をしています。
しかし、この卓、ハロゲン灯体(ディマー)中心の演劇系の照明さんには非常に理解しがたい罠があり、間違った使い方をして苦戦している人が後を絶ちません。
今回は、この「DMX Operator系の卓」の設計思想と、もし手元にあるならどう使うのが正解なのかを解説します。
「フェーダーが並んでいる」=「チャンネル操作」ではない
この卓の最大の特徴(そして誤解の元)は、「真ん中にフェーダーが8本並んでいる」 という点です。
一般的な演劇用照明卓に慣れていると、こう思いますよね。
「フェーダー1を上げれば、DMX 1chが上がる」
「フェーダー2を上げれば、DMX 2chが上がる」
…
「フェーダー8を上げれば、DMX 8chが上がる」
「フェーダー9以降は、ページ切り替えによって操作する」
いわゆるチャンネルフェーダーがベタ(ヒラ)に並んでいる状態です。
確かに、最初の16chまではその認識でも問題ありません。しかし、17ch以降を操作しようとしたとき、盤面左側の「FIXTURES」ボタンをどのように操作するのか、よく分からなくなります。というのも、FIXTURE 1と2を同時に選択することができ、その場合、「フェーダー1を上げると、DMX 1chと17chが同時に上がる」という状態になるのです。
いくつかの操作パターンと、何が起こるのかを見てみましょう。
結果:DMXアドレス 1 に信号が送られる。これは直感的。
結果:DMXアドレス 9 に信号が送られる。PAGE Bは「9~16本目のフェーダー」として扱われる。これもページ切り替えに慣れていれば直感的。
結果:DMXアドレス 17 に信号が送られる。この辺りから、FIXTUREとPAGEの違いは何?という疑問が出てくる。
結果:DMXアドレス1 と 17 に信号が送られる。17だけを操作するには、FIXTURE 1 をもう一度押して選択を解除しなければならない。この辺りで、よく分からなくなる人多数。
さらに複雑な操作をしようとすると、この卓にパッチ機能 (ソフトパッチ) が存在しないことに気づき、「なぜ、一見高機能そうな調光卓なのにパッチすらできないのか?」「このFIXTUREボタンの奇妙な挙動は何?」「そもそもFIXTUREって何?チャンネルフェーダーのページ切り替えと何が違うの?」……と、ますます困惑することになります。
そして最後に、シーン再生がボタンでしかできない (シーンをフェーダーに入れることができない!) ことに気づき、さらに絶望してしまいます。
なぜ、このように奇妙な、“知ってる照明卓じゃない” 挙動をするのでしょうか?
実はこの卓、「原始的なムービング卓を極限まで簡易化したもの」 と考えるのが正解です。
設計思想が、「個別のチャンネル操作」ではなく、「フィクスチャー(灯体)単位の操作」 にあるのです。
この卓が想定している「アドレス16飛ばし」の法則
この卓を活用するには、卓が想定している世界観にこちらが合わせてあげる必要があります。
では、「手元にこの卓しかなくて、なんとか照明を仕込みたい」という場合はどうすればよいでしょうか。ハロゲン灯体+ディマー (調光ユニット) メインの現場では残念ながら使いづらいままですが、多数チャンネルのある (RGB、RGBWなどの) LED PARであれば、ある程度この卓の設計思想に沿った使い方ができます。
ここで重要になるのが、「灯体側のアドレス設定」 です。
まず、一般的な卓やPCベースの高度な卓であれば、卓側でパッチができるので、灯体側のアドレスは自由に決められます。例えば、5ch (RGBW+Strobe) のLED PARが4台あれば、隙間なく詰めて以下のように設定するのが普通です。
- 1台目: Addr 001
- 2台目: Addr 006
- 3台目: Addr 011
- 4台目: Addr 016
しかし、DMX Operator系でこれをやってはいけません。
なぜなら、この卓は灯体 (フィクスチャー) 単位の操作に主眼が置かれており、しかも「フィクスチャー1は1〜16ch」「フィクスチャー2は17〜32ch」……と、制御できるアドレス範囲が固定されていて、パッチ機能がないためです。
つまり、この卓は、実際に制御する灯体の消費ch数が多かろうが少なかろうが、「1つの灯体 (フィクスチャー) は16ch消費するものだ。この卓は、12個の灯体 (フィクスチャー) を制御するための卓である」と勝手に決めつけているのです。
つまり、灯体のアドレスの方を、この卓の (自分勝手な) 設計思想に合わせてあげる必要があります。
この卓を使う場合の正解アドレスはこれです。
- 1台目: Addr 001 (Fixture 1ボタンに対応)
- 2台目: Addr 017 (Fixture 2ボタンに対応)
- 3台目: Addr 033 (Fixture 3ボタンに対応)
- 4台目: Addr 049 (Fixture 4ボタンに対応)
灯体のチャンネル数が少なくても、空白のアドレスがもったいなくても、必ず「16チャンネル飛ばし」で設定するのが、この卓との付き合い方です。
なぜ「16飛ばし」なのか?
こう設定することで、混乱の元だった「FIXTUREボタンの複数選択」 が活きるようになります。
例えば、Fixtureボタンの「1」と「2」を同時に押して選択したとします。
もしアドレスを詰めて設定していると、フェーダー1を上げたとき、1台目の「赤」と、4台目の「ストロボ」が変わる、といった「機能のズレ」が起きます。これでは直感的な操作が困難です。
しかし、16飛ばしで揃えておけば、「フェーダー1は常に赤」「フェーダー2は常に緑」 というふうに、全ての灯体でフェーダーの役割が統一されます。つまり、Fixtureボタンとフェーダーによる「マトリックス (格子)」が成立します。

こうすれば、Fixtureボタンで制御したい灯体をまとめて選び、フェーダーを一斉に上げて色を作る、という直感的な操作が可能になります。このようなスムーズな操作のために、卓が想定しているアドレスに灯体側が合わせてあげる必要があるのです。

「フィクスチャー」を選んでから操作する
もう一度おさらいですが、この卓の「本来想定されている」正しい操作手順は以下の通りです。
まず、盤面左側にある「FIXTURE」ボタン(1〜12)を押して、操作したい灯体を選びます。
フィクスチャーを選んだ状態で、初めて8本 (16本) のフェーダーが効力を持ちます。これらは単なる個別チャンネルのフェーダーではなく、選んだ灯体の「機能(色、明るさ、ゴボなど)」を調整するためのツマミという体裁です。実際に出てくるDMX信号としては一般的な調光用の卓と何ら変わりありませんが、設計思想としてはそういうことになっています。
作った明かりを、フェーダー上部の「SCENES」ボタンか、盤面右端の「CHASE」ボタンに記憶させます。シーンを記憶できるのはボタンだけで、フェーダーにシーンを入れることはできません。
SCENES ボタンを選んで再生します。チェイススピードとフェードタイムは、盤面右隅のSPEEDフェーダー、FADE TIMEフェーダーでライブ制御します。シーンやチェイスにあらかじめフェードタイムや速度を埋め込むことはできません。
……つまり、「フィクスチャーボタンで灯体を選ぶ」→「その中のパラメータを調整する」 という、ムービング卓の概念そのもので作られています。これが、「原始的なムービング卓」という表現をした理由です。
一方で、ハロゲン灯体 (調光ユニット) 中心の現場では、フィクスチャーという概念がそもそも無く、ただ調光回路が並んでいます。しかも灯体の色や役割などの「区切り」は一定ではなく、バラバラのものを卓側のパッチ機能 (ソフトパッチ) で並べ替えることを前提としています。
この「設計思想のズレ」が、戸惑い・混乱を引き起こす最大の理由です。
なぜ調光ユニット中心の現場で使いづらいのか?
では、その「設計思想のズレ」の正体について、詳しく見てみます。よくある小劇場のスペックを例に考えてみましょう。
- 劇場設備: 調光ユニット24ch(DMXアドレス 1〜24番に固定)+ハロゲン灯体
- 持ち込み: LED PAR 4台(DMXアドレス 25番〜以降に設定)
このよくある構成に対し、DMX Operator系の卓(16ch区切り)を当てはめると、操作体系が破綻します。
一般回路が分断される「16番の壁」
おさらいですが、この卓は「ボタン1つで16ch」を管理します。この卓を、24chの調光ユニットがある小劇場に持ち込んだとしましょう。
- Fixtureボタン [1] を押した時:
→ フェーダーで 回路1〜8 (Page A) と 回路9〜16 (Page B) を操作 - Fixtureボタン [2] を押した時:
→ フェーダーで 回路17〜24 (Page Aの1〜8本目) を操作
このように、24chある一般照明 (調光ユニット) は2つの「フィクスチャー」に分断されてしまいます。つまり、「地明かりを一斉に上げたい」と思っても、Fixtureボタンを行ったり来たり切り替えないと操作できません。サスはFixture 1にあるけど、前明かりの一部はFixture 2にある、といった状態になり、パニックになります。
LEDの操作も巻き込まれる
さらに、持ち込んだLEDを続きの番号(アドレス25番〜)に設定したとします。
すると、LEDのアドレス 25〜32番 は、Fixtureボタン [2] の Page B に割り当たってしまいます。結果として Fixtureボタン [2] は、以下のごちゃ混ぜ状態になります。
- Page A: 一般照明の残り(17〜24番)
- Page B: LEDライト(25〜32番)
「一般照明の17番を修正しようとしてフェーダーを動かしたら、ページ切り替えを忘れていてLEDの色が変わってしまった」という事故が多発し、さらに他のFIXTUREボタンが選択されたままになっていると混乱必至です。
設備側のアドレスは変えられない
「ディマー (調光ユニット) のアドレスを、キリの良いところでFIXTUREが変わるように変更したい」と思うかもしれません。しかし、劇場の調光ユニットは、コンセントの番号とDMXアドレスが紐付いて固定されていることがほとんどであり、灯体を吊った位置に応じてアドレスはだいたい決まってしまいます (下手奥の方は1~4になりがち、上手前の方は40~48になりがち、など)。
操作盤面 (フェーダー番号) とDMXアドレスの関係性を操作しやすいように並べ替える行為は、卓側のソフトパッチで実施するのが常識です。「この卓を使いたいので、劇場の配線を根元から変えてください」とは言えません。
強電パッチや、ディマーユニットの差し替えが可能な小劇場では、ある程度灯体とアドレスの関係性を変更できますが、いずれにしても「フィクスチャー」という概念に当てはめて操作できるようなスッキリ感を得るのは難しいでしょう。
結論
このように、「アドレスが連番で固定されているディマー設備」 と 「16ch区切り&パッチ無しのDMX Operator」 は、水と油の関係です。
設備のある劇場で持ち込み卓を使うなら、ディマーフェーダーが並んでいる一般的な調光卓、PC卓やムービング卓、あるいはそれらの併用がベストです。この卓はあくまで「自分の持ち込み機材 (しかも同一機種のLED PAR) だけで完結する」時専用と考えましょう。
まとめ:安いけど買ってもいい?
結論として、このタイプの卓はかなりクセが強いです。
- ディマー(一般照明): フィクスチャーという概念が無く、卓側でのソフトパッチを前提としているので、この卓での操作は向いていません。
- ムービングライト: 概念は合っていますが、パン・チルト・ゴボホイールをフェーダーで操作するのは至難の業です。
結果として、フィクスチャー型の概念が利用でき、かつパン・チルトが無い灯体……つまり、LED PAR程度にしか使えない中途半端な卓だと言わざるを得ません。
Amazonなどで安価に売られており、見た目も分かりやすそうなので初心者が飛びつきがちですが、実態は「設計思想をよく理解してアドレスを合わせてあげないと、思ったように動かない玄人向けの原始的な卓」です。
「たまたま手元にあるから活用したい」という場合は、上記の16飛ばしアドレス設定を行えば、簡易的なLEDコントローラーとしては役に立ちます。
もし、これから安い予算で照明システムを組みたいのであれば、この卓を買うのではなく、PCベースのセットアップをおすすめします。
- 「Open DMX USB(または互換品)」と「QLC+」
- 「Art-Netノード」または「Chamsys MagicDMX」と「Chamsys MagicQ PC」
- 「Avolites T1」と「Avolites Titan PC」
- 「Art-Netノード」と、「MA dot2 onPC」
- 「ETCnomad USB key」+「ETC Gadget II」と「ETC EOS」
このように、比較的安価なPCベースの卓構築方法は色々な方法で提供されています。
もちろん、ハロゲン灯体 (ディマー) 中心の制御でムービング的な操作が不要という場合は、SCENE SETTER や SmartFade 2496 など、フェーダー中心の卓の中古品を探すのも良いでしょう。
いずれにしても、「これ系の卓」(DMX Operator系の卓) を買うよりも学習コストに見合った拡張性があり、将来的なスキルにもつながるはずです。
参考動画
英語の動画ですが、まさに「これ系の卓」を設計思想どおりに扱っている動画があるので紹介します。字幕や自動吹き替えで日本語で理解することもできます。
動画を見ると、2台の同一機種のLED PARを使って、1台目はアドレス001に、2台目はアドレス017に設定していることが分かります。この機種は6chのLED PARなので、間に空白のアドレスが発生していますが、それは無視して「16飛ばし」で設定していることが理解できると思います。
余談: この卓の元ネタは?
この卓と同様の設計思想を持つ卓は、Martin 2518 という1990年代の卓にまで遡ります。2518では、フィクスチャーボタンは6個×2ページ=12個でしたが、フェーダーは6本しかありませんでした。

取扱説明書には、この卓を使って、MX-1 (スキャナー型ムービングライト) ×4台、Roboscan 812 (スキャナー型ムービングライト) ×2台、などを操作する想定のアドレス割り例が示されています。このことから、比較的チャンネル数の少ないローエンドなムービングライトを簡易に操作する、という目的が当初は強かったようです。

このMartin 2518を拡張する形で、Chauvet、American DJ などのローエンド・ミドルエンド照明機材メーカーがDMX Operatorを作り、さらに中国系ノーブランド卓が大量に出現した、と考えるのがよさそうです。
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