「赤い投光器」を舞台照明的に真面目に考察してみる

工事現場やお祭り屋台などで雑多に使われる、赤くてクランプの付いた投光器。一度は見たことがあるでしょう。

典型的な「赤い投光器」

日動工業、高儀などのメーカーが主に販売していて、ホームセンターでも簡単に見つけることができます。
時代の流れで電球型蛍光灯やLED電球を使用したものも増えてきていますが、もともとの設計は白熱電球用であり、概ね200W用はE26口金、300W用と500W用はE39口金を採用し、電球自体にミラーの付いた「屋外用レフランプ」と呼ばれるタイプの電球を採用しています。
こうした投光器は、「白熱電球を採用している」「クランプが付いている」という特徴から、舞台照明への転用を検討することが考えられます。

目次

光学系による分類

「赤い投光器」を舞台照明的に分類する場合、その分類は装着されている電球に依存します。本体そのものにはレンズやミラー等の光学系が付いていないためです。
買ったときに付いてくる屋外用レフランプをそのまま使う場合、「フラッドライト」の一種と言えるでしょう。レフランプはミラースポットライトの一種と言うことができなくもないですが、照射角が60°程度の広がりを持ち、特にスポット性のある光を目的にしているとも言えないので、「スポットライト」の定義からは外れるでしょう。
また、後から電球を交換してビーム電球(クールビームなど)を装着した場合、「PARライト」の一種になります。

舞台照明的に考えると……

「赤い投光器」を、そのまま標準の屋外用レフランプと共に使う場合、舞台照明的には使いづらい点の多い灯体になります。
まず、被照面にフィラメントの影が出てしまうことが最も大きな特徴です。屋外用レフランプはフロスト加工 (ガラスを白く濁らせて光を拡散する加工) が入っていないので、フィラメントの形がそのまま被照面に出てきます。
また、多くの電球は110V定格で、かつ色温度が低めに設定されているため、舞台照明で標準的に使われる白熱・ハロゲン電球 (色温度3050K~3200K) に比べると、やや赤みがかって見えるでしょう。
当然、もともと舞台照明用ではないので、フィルター (ゼラ) を挿入するスロットもありません。
さらに、調光状態で使用するとフィラメントが「ジリジリ」と鳴く電球がほとんどで、これも舞台照明的にデメリットになります。
それから、本体が赤や黄色などの目立つ色であることも、会場がブラックボックスの場合、デメリットになるでしょう。

舞台照明的な使い道

それでも舞台照明における使い道を見出すなら、まず考えられるのは「小規模会場における仮設客電」になります。しかし、前述したようなフィラメントの影が出る特徴や調光時の鳴きの問題から、若干「粗野な」印象を与えることがあります。屋外用灯体ですので、野外劇や雑多な空間での演劇、ライブなど、その「粗さ」が許容される場面かどうかよく考えて採用するのがよいでしょう。

「赤い投光器」のフィラメントの形が床に出ている例。明るさムラが激しく、繊細な地明かりには不適と分かる。

また、ライブ照明において「目つぶし」として採用するのも良いと思います。目つぶしは通常「ミニブル」と呼ばれるPAR電球を複数個並べた灯体で実施されますが、それよりも安価に、類似の効果を得ることができます。
反対に、静かな演劇の本編で長時間調光状態で使用するような地明かり用途には向いていない灯体と言えます。

音楽ライブで投光器を目つぶしとして使用した例。緑色の灯体に挟まれた中央付近の2台が「赤い投光器」。それ以外はすべて舞台照明用の灯体。遜色なく使えていることが分かる。

代替手段

小規模会場であれば、屋外用レフランプのデメリットを解消するために、電球を150Wのビーム電球などに入れ替えて使用することも考えられます。この場合はクリップソケット等と併用して、地明かりや単サスに使っても良いかもしれません。
また、同じ投光器でも、ハロゲン電球 (棒状の両口金タイプ) を採用した四角や楕円形の投光器もあります。こちらの方がフィラメントの形も出にくく、舞台照明用としては優秀です。

四角形・ハロゲン電球の投光器

さらに言えば、そもそも本物の舞台照明機材 (白熱・ハロゲン) を中古で安く入手したり、安価なLED灯体を通販サイトで入手できたりする昨今、わざわざ投光器を新規に採用するメリットはほとんどありません。「学校にたくさん投光器が転がっていて、それを活用して文化祭の照明を盛り上げたい」など、積極的な事情がある場合のみ、この記事を参考にしてみてください。

注意事項

もともと舞台照明用の灯体として設計されていないので、取り扱いには十分に注意する必要があります。
特に、下の画像のように「首」の部分のネジでクランプ部分とランプハウス部分が接続されている場合が多く、このネジが緩んでいるとランプごと落下するリスクがあります。そうならないように、「首」よりも先の部分に落下防止ワイヤーをどうにかして付けるなど、舞台照明用として追加の安全対策を実施しましょう。
ハロゲン投光器の一部には、舞台照明機材と同様の「アーム」が付いているタイプもあります。このタイプであれば、落下防止ワイヤーの運用も含めて、舞台照明用灯体とほぼ同じ感覚で扱うことができます。

投光器の比較と取り扱い上の注意
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この記事を書いた人

高校演劇~大学の学生劇団で照明を経験し、現在は会社員の傍らアマチュアで舞台照明を継続。第39回日本照明家協会賞舞台部門新人賞。非劇場空間の劇場化、舞台照明の歴史が得意。

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