舞台で使われる電源コネクター(差込接続器)のうち、「C型」と呼ばれるタイプについて説明します。
C型コネクタ |
左から ミニC、30C、ラージC |
【コネクターの基礎用語】
- オス(♂)…「差し込む側」のコネクタ
- メス(♀)…「差し込まれる側」のコネクタ
- プラグ…オス(♂)と同じ
- コネクタボディ、ボディ、ボデー…メス(♀)側のうち、延長コードの♀側などに使うもの
- コンセント…メス(♀)側のうち、壁などに埋め込まれたり固定されているもの
- 定格電圧…その電圧までは恒常的にかけてよい電圧。舞台用コネクタは「125V」か「250V」のどちらか。
※実際に流れてくる電気の電圧ではない。日本の劇場で実際に流れてくる電気は100Vか200Vのどちらかである。 - 定格電流…その電流までは恒常的に流してよい電流。定格電圧とともに、コネクタに「125V 20A」などと刻印してある。
形状と全般的な特徴
「C型」と呼ばれるコネクターは3種類あり、それぞれ 20A(アンペア)、30A、60A の定格電流を持ちます。20Aのものは「ミニC」、30Aのものは「30C」あるいは単に「C」、60Aのものは「ラージC」と呼ばれます。
形状はいずれもその名が示す通り、「Cの字」をしており、ミニC、30C、ラージCの順にコネクタが巨大になっていきます。
詳細は後述の歴史のところで述べますが、いずれも舞台照明専用に作られたコネクタであり、「頻繁に抜き差ししても壊れない」「暗闇でも手探りで抜き差ししやすい」などの舞台特有の条件を満たすために、特にプラグが握りやすく、丈夫に作られています。
また、アース(保護接地)も取れる、メス側に指を突っ込んでも感電しない簡易スイッチ機構など安全面にも配慮されており、新規に建設される公共ホールでは調光回路は必ずC型で設備されます。
ミニC型を除いて長らくフワッとした規格でしかありませんでしたが、1993年に JATET規格 に制定されたことで、舞台照明における権威はいっそう高まりました。
ミニC型 (C型20A) の特徴
画像:プラグ(C-20P)、ボディ(C-20B)、コンセント(C-20C)
【通称】ミニC
【極数】2極+アース付き (2P+E)
【定格】125V・20A (使用電圧100V)
【コメント】
日本の劇場では慣習的に20A (≒2kW=1kW灯体2発まで=500W灯体4発まで) を最小ディマー容量として調光器が構築されており、20Aコネクタの需要が多いのですが、その目的には民生品の T型コネクタ が使われてきました。このT型を置き換える目的で (なぜ置き換えることになったかはT型の記事で解説予定) 作られたのがミニC型です。この点、30CやラージCとは若干導入経緯が異なります。
最近の公共ホールに行けばサスバトン等の回路は多くがミニC型で設備されていることでしょう。
一方で、民生品であるT型とは異なり、値段が高いのがネックで、民間の小劇場などではなかなか導入しづらいことと思います。その場合、無理にミニCを導入するのではなく、平行アース付き15A の導入も検討すべきでしょう。昨今は小容量多ディマー化が進んでおり、必ずしも「1回路=20A」に拘る必要もありませんので。
30C型 (C型30A) の特徴
画像:プラグ(C-30P)、ボディ(C-30B)、コンセント(C-30C)
【通称】C型、30C
【極数】2極+アース付き (2P+E)
【定格】125V・30A(※) (使用電圧100V)
(※)かつては「250V・30A」の定格だった
【コメント】
大劇場のフロアコンセントに多く配備された A型30Aコネクタ を起源としており、その影響で現在もフロアコンセントでの使用が多いですが、所によっては普通にバトンにも配備されます。
その他、最近ではDMX機器の接続を想定した直回路にも、30Cが使われます。従来から音響用電源として30Cを使うことが多く、また「平行15Aの2回路分」の容量であることも、直回路には都合がいいでしょう。
かつては250V定格であったことから、200V回路に使われることもありましたが、現在は100V系と200V系で同じコネクタを使用してはいけないことになりましたので、現行品は定格も125Vになりました。
このあたりの定格電圧の解釈は、T型コネクタの記事 に詳しく載せる予定です。
ラージC型 (C型60A) の特徴
画像:プラグ(C-60P)、ボディ(C-60B)、コンセント(C-60C)
【通称】ラージC
【極数】2極+アース付き (2P+E)
【定格】125V・60A(※) (使用電圧100V)
(※)かつては「250V・60A」の定格だった
【コメント】
30Cと同じく、A型60Aコネクタ を起源としています。舞台袖などに音響用や持ち込み機器用の直電源として出ていることがあるほか、1.5kW~2kWクラスの高出力灯体をシーリングに使っているような大劇場や、ローホリ灯体も間口が広い場合かなり大電力になりますので、そういったところでは調光回路としても使われるようです。
また、最近はフラットスペースの小劇場型ホールも増えてきていますが、そういった場所では電気室に巨大な調光ユニット盤を設置するのではなく、バトンに直電源を出しておいて、バトン吊りの小型調光ユニット(ポータブルディマー)で全て済ませるというスタイルも多くなってきています。
(画像:ポータブルディマー。東芝エルティーエンジニアリング AL-TUIPT-10203-60)
その場合、直回路はこの「ラージC」で出し、それぞれの直回路に20A×3ch=合計60Aのポータブルディマーを吊ることが多いです。ロームシアター京都のノースホール(小ホール) などが典型例です。
C型コネクタの歴史
上で少し触れたように、ミニCと30C、ラージCはそれぞれ、導入に至る経緯が少しずつ異なります。
まずミニCは、「T型コネクタの100V系での使用禁止」と「アース(保護接地)の重要性」が取り沙汰されるようになって登場したもので、歴史は浅いです。おそらく、JATET-L-3030-4「演出空間専用差込接続器C型20A」の規格自体とほぼ同じ歴史を持つでしょう。規格の後半に制定経緯の説明もありますので、興味のある方はぜひお読みください。
一方、30Cについては、丸茂電機施工事例の国立劇場(1966年)のところで、「末端負荷に至るまですべてアース線を取り…(略)…コンセント、コンネクター類も3極30Aのものを新設計し」とあるため、この時に作られたものである可能性が高いです。柘植貞輝(1969)『初歩の舞台照明の手引き』p.68 に30Cと思われる写真が載っていますが、当時の丸茂電機のパンフレット等から引用したと考えれば時代的にも合っています。
↑1969年の文献に登場する30Cコネクタ
しかし、多くの劇場はその後もA型コネクタで施工され、本格的に普及するのは JATET規格(-L-5040-1) の制定経緯にもある通り、1980年代になってA型コネクタの生産が終了することになってからでした。当初からA型コネクタの後継品として作られたので、C型♂はA型♀に差し込めるように設計されていました。定格250V・30Aで赤茶色のコネクタは、その頃からJATET規格(-L-5040-1)制定までの間に作られたものです。
JATETに制定後は各メーカーで規格が統一され(定格125Vで黒いコネクタ)ました。
ラージCについては、国立劇場の時点で30Cと同じく開発されていた可能性もありますが、詳細は不明です。1980年代以降の動向は、30Cと全く同じであることが明らかになっています。
コメント
コメント一覧 (2件)
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C30より大きいCコネクタは、テレビスタジオでの導入で普及が進みました。
テレビスタジオはNHK主導で、だいぶ早い時期からアース付きのC型が要求仕様として制定されていて、その時舞台用A型から進化したC型を当時の龍電社が標準仕様として納入したあたりから普及が進み、ストロボ全盛になる前の写真スタジオの定常光でもスタンダードになっていました。ただし、写真の世界は映画方面からの機材の流れもあるので、A型や海外仕様のコネクタのところも現在でもあったりします。
C60はテレビスタジオや写真スタジオのスカイに使われたりしていますが、大ホールのホリゾントでも使用例があります。
抜く時ダイコン引っこ抜くより大変です(^^)
SECRET: 0
コメントありがとうございます。
テレビスタジオの影響もあるんですね!
テレビと舞台は近いはずなのになかなか歴史が追いづらくて、この機材や設備はテレビと舞台どっちが先だったのだろう?と思う例は他にもありそうです。