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【舞台照明】光の当て方の種類(1):前明かり

劇場に行って、こんな言葉を聞いたことはありませんか?

  • シーリング
  • SS
  • サス

……これらの言葉は何を表すのでしょうか?

灯体の種類?機種を表すのでしょうか?…いいえ、違います。

これらは、「灯体の位置と照射範囲」に付けられた名前です。

 

そんなところに名前を付ける必要があるの?……あるんですねえ、これが。

 

照明のイメージを変えたい時、私たち素人はどうしても「」ことだけを考えてしまいます。しかし、色以上に大切なのが、「どこから、どの範囲を照らすか」なのです。色よりも遥かに、観客に与えるイメージが変わってきます。

 

英語圏の仕込み図では、“Purpose(目的)”と書かれるようです。なるほど確かに、「灯体の位置と照射範囲」は、何をどう見せたいのか、明かりの「目的」に密接に関係しますね。

照明プランを考える時、「位置と照射範囲」のことを勉強しておけば、安易に色に頼らずに様々なイメージの明かりを作ることが出来るでしょう。

目次

前からの明かり

前からの明かり(前明かり)は、主に役者の顔を照らし、表情を分かりやすくする目的で使われます。

前明かりの種類としては、以下のようなものがあります。


  • シーリング(CL, Ceil)

    明かりの性質 kihon hiroi
    よく使われる灯体 平凸(大劇場)、フレネル(小劇場)

    客席の頭上・舞台の正面から、舞台全体を、広い範囲で照らす明かりです。

    大劇場では、専用の「シーリング投光室」に灯体を設置します。特に大きな劇場では、シーリング投光室が複数ある場合もあります。(舞台に近い側から1CL、2CL…)

    小劇場や教室などでは、設置される舞台に合わせて適切な位置から投光します。

    役者の顔を最も鮮明に照らしだす明かりですが、真正面から当てるので、立体感や奥行きの無い、ぺらーんとした印象を与えると言われています。

    また、天井の低い劇場や教室では投光角度が浅くなり、背景に役者の影が出やすいという問題もあります。

    シーリングはあまり何色も作っても面白みが無いため、全くカラーフィルターを入れないか、ナマとブルー、コンバージョンA系とB系、など、基本的な色2色程度に留めることが多いようです。
    ceil
    ↑「シーリング」照射イメージ

  • フロントサイド(FR, FS)

    明かりの性質 kihon hiroi
    よく使われる灯体 平凸(大劇場)、フレネル(小劇場)

    客席の頭上・舞台の左右(カミシモ)端から、舞台全体を、広い範囲で照らす明かりです。

    大劇場では、専用の「フロントサイド投光室」に灯体を設置します。

    シーリングに比べると、横方向からの要素が加わる分、立体感は増します。しかし、「シーリングに比べて劇的で不自然な印象は拭えない」などの理由から、普通はシーリングと併用され、フロントサイドだけの顔明かりを作ることは少ないでしょう。

    一方で、学校の体育館など、シーリングを作れない環境では、フロントサイドが唯一の前明かりになるので、重要性が増してきます。
    frs
    ↑「フロントサイド」照射イメージ(クロス)

  • ネライ

    明かりの性質 kouka semai
    よく使われる灯体 平凸

    シーリングの位置から、1~2人分程度の狭い範囲だけを照らす明かりです。「司会ネライ」など、照射対象の名前を付けることが多いです。

    ネライはしばしば「単サス」と併用されます。「スポット的なイメージ」は単サスによって作りますが、単サスは上からの明かりで顔が見えないので、単サスに合わせた「ネライ」を用意して、顔を明るくするわけです。

  • フロントサイド系の効果明かり

    明かりの性質 kouka

    フロントサイドの位置からは、基本明かりとしての「フロントサイド」以外にも、さまざまな効果明かりが考えられます。

    たとえば、影が斜め奥に向かって伸びることを利用して、「夕日」や「朝日」を表す特別な灯体を設置するなど。ソースフォーやエフェクトマシンでゴボを投影するのも良いでしょう。
    IMG_1003
    ↑フロントサイドに吊ったPARで、夕日の表現

  • バルコニー

    2階席のある特に大きな劇場では、2階席の最前列より前の位置に灯体を設置して、前明かりを増強することがあります。テレビ撮影など、前明かりを特に明るくしたい演目向けの設備のようです。

    バルコニーは大劇場特有のもので、明かりの種類と言うよりは、設備の名前です。小劇場でも、劇場の構造によっては「バルコニー」に近い空間に灯体を吊る場合がありますが、「低いシーリング」のような感覚が大きく、あまりバルコニーとは呼びません。

    灯体位置が低く、投光角度がかなり浅くなるので、舞台奥の大道具やホリゾント幕に影が出るなどの問題が考えられます。
    balcony
    ↑バルコニーからの照射イメージ

  • フォロースポットライト

    明かりの性質 kouka semai
    よく使われる灯体 ピンスポ、平凸(代用)

    いわゆるピンスポです。専属の操作者が動かして、役者を追いかけます。

    大劇場では専用の「ピンルーム」に置かれますが、シーリング室やフロントサイド室に置かれることもあります。

    一応、客席側からの投光なので前明かりと言えないこともないですが、かなり特殊な明かりなので、ここでは触れないことにします。
    pinspot
    ↑ピンスポ

【補足】「明かりの種類」と「設備の名前」の関係について

皆さんの中には、「シーリング」「フロントサイド」も、「バルコニー」と同じく投光設備(照明バトン)の名前であって、「明かりの種類」は別の名前が付いているのでは?と思われた方もいるでしょう。確かに、「シーリングに行って」と言われれば、シーリング投光室やシーリングバトンと呼ばれる場所(設備)へ行け、という意味です。

しかし、単に「シーリングを点けて」と言われれば、「シーリング投光室にある、基本明かりとしての、広い範囲を照射する明かり」を点灯せよ、という意味になります。シーリングの位置にある他の特殊な明かりではなく。

また、好きな位置に舞台を組むことが出来る小劇場や教室では、「シーリング投光室」「フロントサイド投光室」などという概念自体がありませんので、灯体の位置に関わらず、大劇場でのそれと同じ目的・効果の明かりを「シーリング」「フロントサイド」などと呼び慣わしています。

英語圏では、灯体の位置(Position)と目的(Purpose)は完全に別々の言葉で表すようですが、日本語ではこのようにやや曖昧なところがあると言えます。

当ブログでは、小劇場・体育館・教室などで公演する場合を視野に入れて、劇場設備に依存した説明はなるべく避けているので、「シーリング」「フロントサイド」は目的(Purpose)を表す言葉として説明しました。

大劇場・ホール 小劇場
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人間座バトンB4_50
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【参考文献・出典】
大劇場の俯瞰図・断面図…大庭三郎(1973)『舞台照明』オーム社,p.24
大劇場のイラスト…ステージシステム株式会社(http://www.stage-system.jp/i/free01.html)
人間座バトン図…人間座スタジオ(http://ningenza.com/studio.php)
その他…筆者作成・撮影

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この記事を書いた人

高校演劇~大学の学生劇団で照明を経験し、現在は会社員の傍らアマチュアで舞台照明を継続。第39回日本照明家協会賞舞台部門新人賞。非劇場空間の劇場化、舞台照明の歴史が得意。

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